電王戦FINAL第二局 永瀬六段 vs Selene
事件は第2局でも起こってしまいました
3月14日に行われた電王戦第一局では「コンピュータが無駄王手を連発するのはいかがなものか」ということで大論争が巻き起こりました。
ところが第二局では、それをさらに上回るような大事件が起こってしまったのです。
まさに神の一手。勝ち将棋鬼の如しとはいうけれど…。 pic.twitter.com/9d3XWKg2rn
— pikaring (@pikaring) 2015年3月21日
永瀬六段が終盤に放った「2七角不成」の鬼手をSeleneが識別できず、王手放置で他の手を指してしまい、反則負けという前代未聞の終わりを迎えました。
本当に永瀬六段が勝勢だったのか
まず疑問が湧き上がったのはこの点でした。直前には控室の面々は盛り上がっていたし、終局後に三浦九段が永瀬勝ちを断言していましたが、もし万が一「必勝」の手順でなかったら大変なことになってしまう。そう考えて先週公開されたAperyで検討させてみました。
△2七角不成の時点では先手有利
この段階ではAperyは先手有利の判定をしています。これは現場で評価値を出していた「やねうら王2014」も同様でした。
このあとのAperyは控室が推奨していた手順通りの進行を選ぶのですが、1五歩を同銀と取られていきなり評価値が落ちてしまいました。
終局後に永瀬六段が並べた通りの局面で、ここはまさに後手必勝形。そしてさらに、コンピュータにはこうなることが読めていなかった。この2つが見事に証明されました。
永瀬六段の決意と覚悟
最終手でバグに沈んだSeleneですが、開発者の西海枝さんが言っていたようにすでに後手必勝の局面であり、普通に「2七角成」と指されていても結果は変わりませんでした。ではなぜ彼は、あえて議論を呼ぶような勝利を選んだのでしょう。
Twitterでもさんざん言われていましたが、Seleneに飛車角歩の不成を認識できないバグがあれば、初手で角道を開けて次に7七角不成とすればいいのです。でもそのバグが取り除かれていたら…?
ソフトと棋士の信頼関係
ここで頭をよぎるのが去年の電王戦第二局、佐藤紳哉VSやねうら王戦です。あの時やねうら氏は、バグを治すというのを口実に全く別のソフトへすり替えるというトンデモないことをしでかしています。
永瀬六段は何も口にしていませんが、もしそのことが脳裏にあったのなら。
そしてそれはSeleneの側も同じです。バグを修正したソフトが勝てば、また去年のようにすり替えがあったのではないかという汚名を着せられかねません。それを防ぐために彼はあえて鬼になった、そんな気もします。
バグを突く必要があったのか
Sleneにバグがあることを知っていても、わざわざそんな勝ち方をしなくても、という声も聞きます。たしかになぜ、普通に指しても勝てるのに、あえて議論を呼ぶような勝ち方を選んだのでしょうか。そこに自分は、永瀬六段のこの勝負にかける覚悟を垣間見たような気がします。
勝つならば相手を殺し、負けるならば自分が死ぬような、そんな覚悟。今までコンピュータに挑んで散っていった仲間たちの敵を取るような、そんな決意。勝ちに泥を塗ったとしても果たさなければならないそんな思いを感じ取りました。
とはいえ、終局後の彼の屈託のない笑顔を見ていると、本当に無邪気に、まるで子どもがいたずらに蝶の羽をむしりとって遊ぶようにSeleneを弄んだと言われても、納得してしまうのですが。
コンピュータ将棋に勝つ方法
人間がコンピュータに勝つためには、2つの方法があると思っています。1つは、コンピュータが苦手とする序盤のうちにリードを築き、そのまま押し切ること。もう1つは今回のように終盤で、現段階では見えないけれどずっと遠くにある必勝局面に誘導することです。
実はこの2つ、序盤と終盤という違いはあっても、どちらも「水平線の向こう側にある勝利を掴む」という点で一致しています。
コンピュータは膨大な局面を読みます。途中Seleneの読み筋を確認しに行った勝又七段によるとその手数、なんと18億手。棋界一の精密な読みを誇る佐藤九段でさえ一億と三手だというのに…。
ですがこれは言ってみれば、砂場の砂の数を1つずつ数えるようなもの。砂一粒の見落としさえも許さないけれど、足元しか見ることができない。
反対に人間は、精度は荒くても水平線の向こう側にある「勝利」までの一本道を見つけ出し、たどり着くための手段を創造することができ、これがコンピュータと人間の大きな違いだと思います。
勝率1割の真実とは
終局後のインタビューで永瀬六段が「事前の練習での勝率は1割程度だった」と答えていたことも大きな話題となっていました。プロの看板に傷をつけるようなことを言っていいのか! そんな印象を持った人も多かったようです。
ですがこれはきっと前述したような「水平線の向う側にある勝利」への局面に誘導できる確率だったのではないかと思っています。そんな長手順を考えることも困難であれば、そこまで誘導できることも稀だろうと考えます。
命中率10%の乾坤一擲の必殺技を秘めてこの戦いに挑んだ永瀬六段。しかもそれは、人間でなければ見つけ出すことができない、人間の一手だったのです。
次回はどんな大事件が!?
来週はいよいよ函館決戦。
稲葉七段の相手は、時代の問題児「やねうら王」\(^o^)/
これは1~500波乱ぐらいあってもおかしくないですよ。
第1局:ソフトが投了せずに大問題
— pikaring (@pikaring) 2015年3月21日
第2局:ソフトが投了してしまって大問題#電王戦
はたして第三局はどうなるんだろう。まさか初手で開発者が投了してしまうとか?(と言って保険をかけておく) 歴史的瞬間から目が離せない!