三体は革命的に面白かった
いやー、凄い。
この前読んだテッド・チャンの「息吹」も圧倒的面白さだったけれど、「三体」はまた別の次元の面白さがあるね。
文化大革命の圧倒的な描写から共産党の底のしれなさは中国人ならではだし、それより何より一つ謎が解けたかと思うとそれは入り口に過ぎなかったりと、話の持って行き方が上手すぎる。
読み進めても読み進めても話が先を行っていて、追いついたかと思うと突き放されて、読むのをなかなか中断できないぐらい物語に引っ張られた。
まったく全然関係ないと思われていたものが後になって「これはあれの伏線だったのかー!」と驚かされるし、登場人物たちには常に予想を裏切られ続けるし、物語力の高さにはおそれいった。
よくできたSFはミステリと変わらないという言葉があるけれど(自分が作った)、謎が謎を呼んで最後の最後にもつれ合っていた伏線がガチーーーン!とひとかたまりになって結末へと転がっていく展開は、まさにミステリそのもの。
そしてそのミステリの根幹にあるものがタイトルの「三体」つまり、「三体問題」だから熱い。
三体問題というのは簡単に言うと、宇宙に3つ以上の天体があると、その運動の軌道を求めることができない、というもの。
この宇宙に例えば太陽と地球しか存在しないのであれば運動は一定になるけれど、宇宙空間にもうひとつでも天体があると、その軌道を完全に予測することは不可能になってしまう。
地球に住んでいると毎朝東から太陽が上って西に沈んでいくのが当たり前のような気がするのだけど、実は地球の軌道はほかの惑星やはるか遠くにある別の星雲からも重力の影響を受け、一定しない。
たまたま地球は幸運にしてその影響が微弱だから統計的に予測ができるけれど、もしそうでない惑星、いつ太陽が登ってくるかどれだけ暑いのか寒いのか分からない世界だったとしたら、そこにはどんな文明が発展するだろう。
そんな、言ってみれば超古典的な超大作SFをこの時代に読めることが尊いと感じる。
アシモフとかACCとかそういう時代の作品に近いところが気に入った。
しかもそう、大作というのがまた憎い。
なんとこの三体、三部作の第一作目だというのだ。
最後まで読み終えて「終わらないのかよー!!!」と地団駄を踏んでしまった。
すでに中国語版は完結しているし英語版も全部でている。
オバマ元大統領がこの本に熱中しすぎて、大統領権限で出版される前の原稿を取り寄せて読んだという伝説も、あながち誇張とは言えないぐらい面白い。
Amazonはこれを1000億円(!)かけてドラマ化するというけれど、そのくらいお金をかけるのが当然だと思える。
日本では10万部売れたと言うけれど、中国ではシリーズ累計2200万部売れているのだという。
桁が違うけど、日本でもそのぐらい売れても全然おかしくないぐらい面白かった。
それなのに、それほど面白いのに2作目の黒暗森林が2020年刊行予定と言うことで、続きがまだまだ読めないというのだから辛い。
中国語がペラペラだったら三冊まとめて取り寄せて読むのだが。
とりあえず全巻読むまでは死ねないぞ、と。
美味い料理を喰って、佳い酒を呑んで、あと400年ぐらいは生きたいものだ。
四世紀後には宇宙人の侵略が始まるかもしれないしね。
にしても、どうしてこうも単行本の帯というのは完全なるゴミなんだろうか。
デザインはダサくて表紙の良さを殺しているし、煽り文句も作品の良さに1%も寄与しない。完膚なきまで資源の無駄だ。
まあ、このスーパーダサいところが発想の原点になったりもするから難しいところなんだけどもね……。