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電王戦第2局について感じたこと

将棋

電王戦第二局におけるやねうら王さんの「プログラム差し替え問題」について、Twitterでも何度かこの件に触れていますが、やはり140文字では語り尽くせない部分もあるため、自分の考えをブログにまとめてみることにしました。
電王戦第2局「やねうら王」の修正対応について‐ニコニコインフォ
第3回将棋電王戦 第2局の対局方法に関する説明‐ニコニコインフォ
やねうら王のPVの件 - やねうらお−ノーゲーム・ノーライフ
明日の昼にはそれに先駆けて記者会見が行われるとのことで今更自分が何を言っても仕方がないどころか余計なことになりかねないのですが、それでも自分の中にあるもやもやを整理するためにも記事にしてみます。
 

結論は『三者とも悪い』

最初に自分が感じた結論からいうと、ドワンゴ、将棋連盟、やねうら王さんのどれも悪い。誰かひとりが張本人というよりも、全員が悪手を指したためにこのような騒動になってしまったと感じています。
 

やねうら王さんは悪い

プログラムの改変が禁止されているのに、読み筋の根幹を入れ替えた「最新バージョン」と差し替えたやねうら王さんには、当然非があります。
ただ、それを糾弾するとしたら今のタイミングではないと考えています。例えば全員が改変に気づかずにだまくらかされて第二局が(圧勝のもとに)終わり、その後で差し替え問題がバレた場合には永久追放も含め、徹底的に叩くべきかもしれません(自分はそれでも叩くべきではないと考えますが)。
しかし今回の場合は、

  1. 将棋連盟:プログラム変更の要望を行う
  2. やねうら王さん:最新バージョンに置き換えたものを提出する
  3. 佐藤紳哉六段:指し手が以前と違うことに気づく
  4. やねうら王さん:ドワンゴに元のバージョンに戻すことを提案する
  5. 将棋連盟:新バージョンを使うことに同意する(←重要)
  6. ドワンゴ:新バージョンを使うことに同意する(←重要)
  7. ドワンゴ:煽りPVを作る(←重要)

という流れになっています。
自分は誰かに石を投げられるほどの聖人君子ではないので、「プログラム改変禁止と言われているけど、最強バージョンにした方が盛り上がるんじゃないかな」と考えてしまうことは、人間としてありえないことではないと思います。たぶん自分も同じ立場だったら、同じことを考えると思います(自分なら勝手には差し替えないと思いますが)。
さらに、その上で組織がGOサインを出し、その結果として個人が叩かれるのを見るのは、どうもいい気持ちがしません。これは自分が、会社という組織の人間であることも関係しているのでしょう。
 
プログラム改変禁止のルールを破ったことは悪いけれど、それを主催者側が認めてしまったことが一番の悪であり、断ぜられる部分なのだと自分は感じています。もう一つ大事な罪があるのですが、それについては後述します。
 

将棋連盟はやっぱりおかしい

将棋連盟は今回の電王戦にあたり「プログラム改変OK」で行こうと考えていましたが、ドワンゴ側から反対され、予選時点のものからの改変禁止を承諾しました。
このような立場で最新バージョンの存在が発覚してしまった場合、どう考えるでしょうか。当初のルールよりも、最新最強の相手と戦うべきだと思ってしまうのが勝負師のサガであり、そのことが最新バージョンを認める判断につながったのだのでしょう。ただしその覚悟を、直接戦う相手である佐藤六段一人にに背負わせるのはいかがなものかと思います。
 
将棋連盟の悪い点は以下の3点です。

  1. 納得しないまま「プログラム改変禁止」ルールに同意し(PVでも強調されています)、あとで翻意を示したこと
  2. 実際に戦う佐藤紳哉六段にすべての重荷を背負わせたこと
  3. 第二局の発表後に何のアナウンスもないこと

 
棋士の集まりである以上一枚岩でないことは目に見えていますが、それにしてもやっていることがチグハグで、この判断についてどう考えているかなどの情報もなく、誰のための組織なのか、なんのための電王戦なのか、今後も続けるつもりなのか、もう辞めるつもりなのか、すべてが闇の中です。米長体制の頃から、根本的には何も変わっていないのだとよく分かります。
ただ将棋連盟側も、ニコ生の影響力(マネー力)を考慮すると、結構弱い立場にあるのではないかと感じるため、それほど強く批判することもできないところが難しいところです。悪い点3つにも、どれも理由があってできないことはなんとなくわかります。ただ、何となく分かるだろ?察せよ!というのは、今の時代通じないんじゃないかなあと思うのが正直なところです。
 
あと一番不満なのが棋士の態度です。LPSA問題にしても、デリケートな話題には触らぬ神に祟りなしで部外者を装っている姿勢には、常日頃から疑念を抱いています。
 

ドワンゴは巨悪

今回の件で一番の悪はドワンゴ、これは間違いありません。
 
そもそも当初にやねうら王さんが差し替えを行なった時に、なぜ新バージョンをリジェクトしなかったか、ここが一番の悪手です。自分がドワンゴの立場でしたら、次のような選択肢が出たと思います。

  1. 重大なルール違反をしたとして失格とし、6位のソフトを繰り上げる
  2. 24点とか27点とかそんなレアケースはどーでもいいから、完全な旧バージョンで戦う
  3. 最低限の変更に留めるよう差し戻す
  4. 新バージョンで戦ったほうが面白いからルールを変えちゃう

どれもあると思います。まずは一つ目から考えてみます。
 

失格処分で6位を繰り上げ

ネット界隈ではこの意見が多数を占めると思うのですが、それは今現在の判断であって、差し替えが判明した時点ではそこまでの大事だと判断していなかった可能性があります。PVも作っちゃったし、逆に6位のソフトにしたら佐藤六段には準備期間が与えられないことになるし、それは「事前練習あり」というアドバンテージを失うことになる可能性があります。
だからこの選択肢に関しては、なくはないけどなしだな、と思いました。
 

完全な旧バージョンで戦う

最も穏当な選択肢です。やねうら王が飛車をタダのところに捨てて佐藤六段が見事に勝ち、「やっぱりソフトなんて人間にはかなわないよな。ははははは」と高笑いできますね。
それで嬉しいのは誰なんでしょう。少なくとも自分はつまらないなと思います。ただ、ルールはルールとしてつまるつまらないの問題では無いという考え方もありますし、たしかにそれはその通りです。
ですが、なぜそんなバグありのソフトが、精鋭立ち並ぶ予選大会をくぐり抜けて5位に勝ち上がったのでしょうか。それは予選が一発勝負だったからではないでしょうか。今回は「事前練習あり」ですので、棋士棋士としてではなくデバッガとしてバグを一生懸命探し、ハメ手で勝つことができるのです。
 
ハメ手で人間が勝つところを見て嬉しいでしょうか。ぼくは嬉しくないし、見せ物としても二流です。
たぶん、やねうら王さん的にもソフトの入れ替えに悪意は本当になく(強くなっているとの認識は当然あったと思いますが)、「その方が盛り上がるやろ!」ぐらいのテンションだったのではないでしょうか。銭にゲバい関西人が金にもならないのにわざわざそんな苦労をするなんて、「受け」狙いしか無いと確信しています(^_^;)
ですがまあ、これが一番穏当な選択肢だったと思います。そして舞台裏のことは明かさない、それが大人の態度でしょう。
 

最低限の改変にとどめるよう差し戻す

普通ならこれが一番ありそうなのですが、一度改変を行った相手に対してどこまで信用できるか、という問題があります。期間的に考えると、これは選べなかったんじゃないかと思います。
 

新バージョンで戦うことを認める

興行的にとか、勝負の見せ所を考えて、ドワンゴはこの選択肢を選んだのでしょう。もちろん将棋連盟に問い合わせはしたでしょうが、飛車をタダで捨てるような相手に勝っても嬉しくないと勝負師なら考えるでしょうし、ドワンゴ的にはルールよりショーを優先したかったのでしょう。なんとここで、三者の意見が合致してしまいます。
ただ結局はこれが、一番悪い判断になりました。というか、してしまいました。ここは断固として
旧バージョンを使わせるべきだったし、例えばその後で「電王戦リベンジマッチ」を佐藤六段と新バージョンとで戦うなどの企画を提案することだって可能だったはずです。
ただし、この段階ではまだ救いはあったはずです。ここまではギリセーフ。次がアウトです。
 

なぜあんなPVを作ったのか!?

ドワンゴの最もヒドいところは、あのような悪意あふれるPVを作成して、『自分が認めたことについて』『他人を批判する』という、やってないけないことをしていることです。
オレは犠牲者だ!悪いのはあいつだ!というのを、映像の力を使って、多くの人の怒りを個人攻撃に向けることができましたね。凄いですね。本当に下衆い。マスコミの悪い要素を凝縮したような黒さがあります。
 
激怒している人にもう一度言いたいのは、「新バージョンを使うことを認め、ルール改正をしたのは主催者であるドワンゴだ」ということ、「悪意を向ける矛先を誘導している」ということです。
もしあの映像が、あんなプロレスじみたものではなく、こんな感じだったらどう思ったでしょうか。

(土下座するやねうら王さん)
「ごめんなさい! つい出来心で最新バージョンにしてしまいました」
(びっくりするニワンゴ
「そんなルール違反認められないよ」
(まあまあと現れる谷川会長)
「我々棋士はどんな相手とでも戦う! そうだろう佐藤くん」
(例のカツラで登場)
「立てよやねうら王、オレの、や、躍動する駒で、新バージョンを粉砕してやるよ」
(嘘泣きするやねうら王さん)
「ありがとう佐藤六段先生、これで視聴者のみんなに、最強のやねうら王を見せることができるよ」
(ガッチリと握手をする二人)
「「みんなに最高の将棋を見せてやろうぜ」」
(この後で経過説明。ルール違反だが佐藤六段の要望もあり認めることにしたetc)

このぐらいの流れなら多分「さすがやねうら王汚いwww」ぐらいで済んだんじゃないかなと思うのです*1。映像の力は本当に恐ろしい。
 
ただ、佐藤六段先生が本当に激怒してしまっているっぽいのでこれは無理なんでしょうね。弱いソフトと戦う予定が強いものに差し替えられたから怒るというのは、ちょっと器が小さいかなと思っています。
あの記者会見でも男らしさというものが見えなかったし、演技でもいいから「どんな卑怯な相手でも粉砕してみせる!」とさえ言えばよかった。自分だったらきっとそう言ったでしょう。
ネットでの怒りが大きいのは、佐藤六段への同情票が大きいのではないかと考えているので、完全に被害者である人を責めるのもなんですが、騒動を大きくした一因はあると思います。ネタキャラなら最後までネタに殉じるべきではないのか。いろんな意味で覚悟が足りていないのだなあと感じます。
 

自分がやねうら王さん、将棋連盟、ドワンゴの三者に望むこと

やねうら王さんに関しては、氏が常軌を逸した人であることはみなさん十分に承知のことだと思いますし、叩いたり罵倒したりしても無意味だし、彼が謝罪したにしても、土下座しようが坊主頭になろうが腹を切ろうが、将棋会から永久追放しようが、憤慨している人にとってはなんの意味もないので、今後も粛々と開発を続けて誰も文句が出せないような史上最強最悪の将棋ソフトを作って欲しいと思います。
 
将棋連盟の最大の失態は情報発信をすべてドワンゴ側に任せっきりにしていたことです。とにかく不透明すぎる組織体制が、またもや弊害を生んだという印象です。結局のところ米長邦雄から谷川浩司へとバトンはわたっても、組織までは変えられなかったと落胆せざるを得ません。いい加減、顔の見える組織へと変化して欲しいです。
 
ドワンゴは、あのような個人攻撃をするようなPVを作成した経緯と意図を説明し、次回以降はきちんとしたルール改正を行なって、こちらも粛々とイベントを進めていただきたいと思っています。騒がれたからやめよう、が一番の悪手。会社組織として、しっかりと反省した上で先へ進んでいただくべきです。
 
そしてもうひとつ、次のことを行なって欲しいと思います。
 

この事件で激怒してもいい人

今回の事件についてはっきりと激怒していい人たちがいます。それは、山本一成さんを筆頭とする将棋プログラマーの方たちです。やねうら王さんの最大の罪は、彼ら同じ仲間を裏切る結果を選んだことでした。



彼ら将棋プログラマーには「自分たちはルールを守っていたのにあいつだけ破りやがった! 卑怯だ!」と罵倒する権利があります。
でもそれは、「自分たちだって最強のソフトで棋士と戦いたいのに!」という怒りのはずです。全世界に向けて最高の場所で発表できるのに、選手権時の古いバージョンを使わなくてはならない不満。「なのにあの野郎だけ!」と憤る気持ちはよく分かります。今回のルール変更で一番の被害を受けたのは、真剣に戦った彼らなのです。
なのでドワンゴには、選手権参加者の言い分をよく聞き、彼らが納得するような方法を見つけ出していただきたいと思います。
個人的にはドワンゴが「他のプログラマーも最新版出しちゃっていいよ」と言いだすことに期待しています。一番苦労されるのは、最新版を安定版にしなくてはいけないプログラマーのみなさんですが、自分の最高傑作を世に出すためならば、協力してくれるような気がします(棋士は戦うことが本業なので無関係)。
 
将棋プログラマーのみなさんには「あんなクズ野郎のソフトなんて片手で捻り潰してやる」という復讐心に燃えて、さらなる強いソフトを開発してもらうことを希望します。永久追放やら参加ボイコットなんてしても意味が無い。正義の味方がすることは、正々堂々と戦って打ちのめすことなのです。
 

そもそもルールがおかしい件

自分は最初から「事前貸出あり」「アップデート禁止」というルールが嫌いでした。これはもう完全にハンデ戦です。人間が舐められています。それだけではなく、このルールによる弊害が、すでに今回の電王戦ですでに現れました。
 
習甦と対した菅井五段は、序盤から時間を使っていたことを局後に聞かれ、
「想定した局面に進まなかった」
ことを原因にあげています。
これはつまり、事前貸出で練習していて「なぞり将棋」を行なっていた。ところが本番ではその手を指さなかったため、研究から外れて完敗したのだと理解しました。これは明らかに油断であり、事前練習ありにしたことによる弊害でもあります。
安易になぞり将棋をした理由については、「普通に指していてはとても勝てないが、この手順ならばどうにか勝てるので、また使われるかどうかわからないけれど採用した」可能性もあり、なんとも言えないところです。
ですがもし、家で練習しているときは同じ手順なので楽勝だと思っていたのに、本番で違う手を指してきたとしたら…。プロとして相手が同じ手を指さないから負けたとは口が裂けても言えませんし、真相は藪の中ですね(^_^;)
 
アップデート禁止も意味がわからないルールです。例えば自分が「3ヶ月後に渡辺二冠と公開対局できる」ということになったら、本番までは寝る間も惜しんで勉強して、今はだいたい初段未満ぐらいの実力ですが、まあ当日までに三段ぐらいには上達して、指定局面ならばもっと上ぐらいになるよう努力するでしょう。
タイトル戦に望む棋士だって同様です。普段どおりの対局をしようなんて人はいないはず。他の全棋士に見せつけるようにして、とっておきの秘中の秘を繰り出して戦うのが勝負師としての美しい姿であるはずです。
今回の電王戦での棋士は、ほとんどデバッガーのような立場です。あるかどうかも分からないバグを探してひたすら彷徨うよりも、正々堂々と戦って敗北するほうが、どれだけ潔いことかと思います。
「事前貸出」「アップデート禁止」は、ソフト側にとってだけではなく、棋士にとっても大きな枷になったのだと、第一戦を見て感じてました。
 

まとめ

すべては明日の記者会見で明らかになりますが、どうも下手を打ってくる気がして不安でたまりません。きちんとコミュニケーションをとって、しっかりとした結論を出して欲しいのですが…。
 
 
以下は余談なので読まなくていいです。
 

この事件に関わらず

今回の件でやねうら王さんに激怒してしかるべきなのは、前述したように将棋プログラマーのみなさんであると思います。それはもう憤怒し、袂を分かつ決意をしても然るべしです。
ただ、それの尻馬に乗って我も我もと罵倒している人を見ると、醜いなあと思ってしまいます。
 
A←B C
 
BがAに悪いことをした。AがBに怒るのはいいし、しかるべき処分を求めるのは分かる。ただ、それを横から見ているだけの人が「Bが悪いことをした! さあ叩け!」と罵詈雑言を浴びせかけるのは、いじめの構図そのもので吐き気がします。
 
今回の事件や、STAP細胞事件もそうですが、叩いていいと言われたから叩こうぜ!とばかりに激怒している人を見るとウンザリします。さあ炎上だ!って、何の得もないのにこれほど人を憎めるなんて、と、同じ人間として恐ろしく感じます。
 
何か不祥事が起こって「開催を辞めるべき」「永久追放すべき」と極論をいう人も嫌いです。そーゆーやり方ってマスゴミさんは得意ですよね。そーゆー人ってまさにマスコミの寵児なのかな?
 
事件や事故があったら反省し、再発防止策を講じ、淡々と次に進むべきなのです。
今回は法律を犯したわけではありません。ルール違反をしたならばそれを教訓として、次につなげていかなければならないし、再チャレンジを阻害してはいけない、それが文明社会だと自分は信じています。

*1:一度怒ってしまった人には仮定は無理だと思いますが