山の日なので森の山に登ってきた

前回の記事の続き。

せっかく森町まで来たのにイカ飯だけ食べて帰るのはもったいないと思い、近くでどこか寄るところはないかと考えて、そういえばいつも札幌に行く途中で「鳥崎八景」と書かれた看板をよく見るな、ということを思い出した。普段は行くか帰るかの途中だから寄る余裕が無いけれど、今日なら問題ない。地元の人からは「たいしたことない」と言われていたけれど、地元の名産を絶賛する地元民なんていないわけだし。

鳥崎八景(8) 上大滝

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そんなわけで、まずは山道をぐんぐん登って鳥崎八景のラスボスである上大滝を攻めることに。下から順番に行くのがセオリーかもしれないけれど、途中で体力がなくなったら元も子もない。最初に行った砂崎灯台で、炎天下の砂浜を歩きまわったせいで消耗していたというのもある。

だけどいざたどり着いてみると、周囲には人っ子一人いない。街から10km以上は山中に入り、人の気配さえ無い。そうなると恐ろしいのはヒグマだ。

ヒグマは人の気配がするところには近づかないという。うっかりばったり山道で出会ってしまって、びっくりしたヒグマが自己防衛のために攻撃するパターンが多いと聞く。

とりあえず何か音を出すものを、とiPhoneを取り出してプレーヤーを再生した。山奥に響き渡ったのは、



デデデン デデデン デデデデデデデデデ



シン・ゴジラ音楽集

シン・ゴジラ音楽集

怖えーよ! シン・ゴジラのサントラは名曲揃いだけど、ヒグマが出そうな森の山道を独り歩きするときに最適なBGMではない!

とりあえずやくしまるえつこに切り替えて(山道に最適だとは言いかねるけれど)階段を下り始めた。

しかしこの階段も相当なもので、落ち葉で半ば埋もれていて「階段とは?」と思うレベルだし、折れた大木に道を塞がれていたりもする。

しかも折れ口が新しい。歩いている最中に折れてこないでくれよ。そんな祈る気持ちを抱えながら駆け下り、しばらくするとごうごうという滝の音が聞こえ、眼前に川が見えてくる。

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滝だ。完璧に滝だった。

鬱蒼と茂る森に囲まれた空間は蝉の鳴き声と滝の音とに埋め尽くされて、音の多さが逆に無音に感じられる。足元の水に手を付けると、ひんやりと冷たくて気持ちいい。道南でこんなにきちんと滝が見られる場所って、ほかになかなか無いんじゃないかな。秋の紅葉のころはどんな表情を見せるのだろう。

そんなことを考えていると、視界の片隅に黒く大きなものがひらひらと現れた。よく見ると、レア蝶のはずのミヤマカラスアゲハが何羽も舞っているではないか。生きて羽ばたいている実物を見るのは初めてだけれども、黒くて青いその美しい姿を見誤ることはないはず。あたりを見回すと水辺の砂の上には蝶が集まって水を吸っていた。

しばらく蝶を眺めたり滝の音に耳を澄ましたりしながらぼんやりと過ごしていたかったけれど、蝶がたくさんいるということは蝶以外の虫もたくさんいるということでもあり、アブがブンブンと体の周りを飛び始めたので名残惜しかったけれど撤退。いくらiPhoneを大音量にしても、滝の音で消されてしまって無意味だということに気がついてしまったというのもある。ダッシュで車に戻って、次の八景を目指した。

鳥崎八景(7)新鳥崎大橋から鳥崎八景(6)駒ケ岳ダムを望む

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ダムとか新大橋とか、さてはこの名所、意外と歴史が浅いな? 江戸時代の鳥崎何兵衛とかが見つけたりしたのかなと勝手に思っていたけれど、予想以上に近年の作だったとは。

家に帰って調べてみると、鳥崎川の沿岸にある風光明媚な場所を8つ集めたようなことが分かったけれど、誰が名付け親なのかとか由来とか、そこらへんはよく分からなかった。ダムに沈んだ2つの代わりにこれらが追加された、らしい。詳しく知りたい人は各自調べてみて欲しい。

ここから下のスポットは釣り人がいたり、駐車スペースが無かったりしたので割愛。

パシフィックホテル清龍園

山道を歩いてかなり汗をかいたので、どこか近くの日帰り温泉に行こうと考えて、せっかくだから行ったことがない温泉に行きたくなった。

ずっと前から気になっている二股らぢうむ温泉長万部でちょっと遠すぎるし、かといって駒ケ岳方面に進むと近場過ぎて有り難みがない。そこで、毎年のように泊まっている銀婚湯の向かいにある、パシフィックホテル清龍園に行ってみることにした。

看板のセンスが昭和すぎるし、大正義銀婚湯が真正面にあってここを宿泊で利用することはまずありえないので、これを機会に行ってみるのもいいだろう。

しばらく車を走らせて、いざ到着してみると駐車場には車がほとんどない。祝日にも関わらず開店休業状態だ。これは捗る。

ロビーに一歩足を踏み入れると「ご利用ありがとうございました」という張り紙がデカデカと貼りだされていた。A4のコピー用紙に一文字ずつ印刷されていて非常に安っぽい。そもそも向きが逆だし(入ってきた客にこのメッセージを見せる意味とは?)、帰る客にわざわざ口を開いて言ったって、そのカロリー分も金が払われるわけじゃないし、という意思表示だろうか。

無人のロビーには有線で最近の軟弱なJ-POPが流されていて、旅情も風情もへったくれも無いような気分になる。従業員に500円払うと、更衣室にコインロッカーがないのでレストラン手前にあるものを使うよう言われる。まあ、無いよりはいい。

昭和チックで古めかしい建物を通り抜け、至る所に店主らしき人が書いたであろう感謝系の格言が貼られているのが微妙に気になるけれど、そーゆーのはなるべく見ないようにしながらお風呂場へ。更衣室は改装したのかきれいだけど、浴室部分はかなりの昭和。鏡の表面が剥がれてほとんど使い物になってないのはご愛嬌。

ただ、泉質は悪くない。源泉掛け流しだし、茶色く濁ったお湯はいかにも効き目がありそう。

露天風呂に出ると「銘石の秘湯」を掲げるだけあって巨石が詰まれており、その背後には森林が広がっていて悪くない。そして温泉にもミヤマカラスアゲハが!

大きく広けた青空の下、のびのびと風呂を楽しもう、と思っただけど、それを台無しにするのが件のJ-POP。なんとこの旅館では、露天風呂にもBGMを流しているのだ! いまどきそれがサービスになると思っている発想が昭和すぎる。外にあるサウナ室の中もまるでここはカラオケかってぐらいのボリュームだし、これにはつくづく閉口した。

かんぽの宿 小樽に泊まった時は、早朝全館に鳥のさえずりBGMが流されて唖然としたけれど(あそこも酷かった)、自然を求めてやってきているのに、まがい物を全力で押し付けてくるってどういうことやねんと思ってしまう。価値観が安っぽいと、薄っぺらなことしか思いつかないんだよなあ。

カラスアゲハを追いかけている最中に尻のあたりをアブにしこたま刺されるというお土産をいただいて、すごすごと帰路につくのであった。