電王戦リベンジマッチ

一年越しの対局

去年の大晦日は電王戦リベンジマッチを見て過ごしました。

将棋電王戦リベンジマッチ 森下卓九段 vs ツツカナ - 2014/12/31 10:00開始 - ニコニコ生放送

年末年始から将棋の生中継を見られるとは、なんていい時代なんだ!

前回の電王戦は、プロ棋士が将棋ソフトに対して一勝四敗と惨敗を喫してしまったのですが、第四局で「ツツカナ」に敗れた森下九段が「継ぎ盤があれば勝てた」と発言したことから、今回のリベンジマッチは「継ぎ盤あり、持ち時間を使い切ったら1手10分」というルールで行われました。
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見る前は「継ぎ盤があってもなくても結果は変わらないだろう」という冷ややかな目で見ていたのですが、これが思いの外面白かったです。

継ぎ盤が面白い

継ぎ盤があるということは対局する盤面の他に、検討用の将棋盤を用意して、指し手を確認しながら自分ひとりで検討ができるということです。

ですがプロ棋士は脳内に将棋盤を持っているし、脳内将棋盤なら一手一手駒を動かさなくても瞬時に指定した局面まで持っていけるわけで、本物の盤駒を持ってきたところでタイムロスにはなっても勝敗には影響を及ぼさないだろうと思っていました。

ところがこれが、演出としては相当面白いのです。ボヤキだったり読み筋だったり、プロ棋士が頭のなかで考えているものが明らかになるわけです。普通は終局後の感想戦で、しかもポイントに絞って限られた時間で行われるものが、対局中に逐一伝えられる。こんな贅沢なものはないなと思いました。

棋譜に現れるものは氷山の一角で、観戦記にしても指し手を噛み砕いて味付けして出されたものであるのに対して、膨大な量の生データに直接触れることができるというのは、とても楽しい経験でした。

人間の力を最大限に引き出す工夫

1手10分という持ち時間は通常有り得ないぐらいの長さです。

普通は持ち時間を使い切ったら1手1分の秒読みとなり、いかにプロ棋士といえども読み切れない部分があってそこにドラマがあったりするわけなんですが、純粋に勝負として考えた時にそれはどうか、と以前から思っていました。

その意味においては、終盤のギリギリの局面で考える余裕がある、そして少しでも脳を休めることができるというのは、人間の力を最大限に引き出し、最高の実力を引き出すための工夫であると感じました。

現に森下九段は序盤で得たリードをそのまま維持して、ほとんど勝勢の局面まで持って行くことに成功します。これまでの電王戦においては、最初こそ人間有利であっても時間がなくなってくる中終盤に疑問手が出てひっくり返されてしまうことが多いように感じていたので、これは良いルールだと思いました。

1手10分の弊害

ところがこのルールには「対局時間が膨大になる」という弊害があったのです。

お互いに時間をフルに使いあったら、6手で1時間もかかってしまいます。もし120手で終わるとしても20時間。180手なら30時間!

今回の電王戦リベンジマッチは翌朝(元日)の6時まで続けても勝負がつかず、「指しかけ」という前代未聞の結末になって勝負は持ち越しとなってしまったのですが、それこそ1手10分という持ち時間も前代未聞のものですので、これはしかたがないでしょうね。

最後まで続けるにしても、たくさんのスタッフをいつまでも拘束しておくわけにもいきませんし、会場の都合もあるでしょう。かといって「無制限一本勝負だ!」としてしまうと、それは結局のところ「疲れないコンピュータと疲れる人間の体力勝負」になってしまうわけで、途中で中断させた決断は、間違っていないと思います。

電王戦の今後について

電王戦は今回でファイナルということですが、その後に続くという電王戦タッグマッチは全然面白くない予感がバリバリするので、このリベンジマッチの新ルールを採用して
電王戦μ*1
として生まれ変わればいいと思うんですよ。電王戦は終わり! 来年からは電王戦μ!

判定を導入しよう

もし森下システムの電王戦を行うとすると、難しいのが持ち時間です。2日制にしてもいいんですが、それだと見てる方もダレてしまうし、拘束時間もながくなってしまう。そこで提案したいのが判定システムです。

規定の時間になったら、電王戦に出場している他のコンピュータ4台による判定を行い、評価値が高い方を「判定勝ち」にしてしまうというのはどうですかね。

ほとんどのスポーツでは時間やラウンド数が決まっていて、無制限一本勝負がまかり通っているのは将棋や囲碁ぐらいです。ここは割りきって、コンピュータに旗を上げてもらうのがいいんじゃないでしょうか。

たとえば朝9時から開始して夜の11時まで続けるとすれば、昼と夜の休憩時間を抜いて12時間。持ち時間がなく初手から1手10分だとすれば72手、5分だとすれば144手は進みます。

実際はこの2~3割増くらいだと思うのですが、1手10分だとまだ終盤の入口なので、勝敗をつけるには至らないかもしれません。そこら辺はまだまだ議論の余地がありますが、とりあえず自分が声を大にして言いたいことは、

明日もあるんだ!

ということです(^_^;) 社畜は辛いよ…。

いくら面白くても、早く寝させてくれないと困りますからね~。

人間の対局にも導入できる?

森下電王戦システムは人間同士の対局に導入しても面白いと思います。お互いに別室にいて、継ぎ盤で検討しながら通信対局する。いわば大和証券杯の生中継版です。公式戦は無理としても、これをドワンゴ杯としてコンピュータと対局する棋士を決定する予選にしたら面白そう。

今回の電王戦リベンジマッチで機械と人間が戦う方法について、かなり洗練されてきたと感じました。せっかく進化の方向が見えてきたので、今後も面白い方向に続いていってほしいなあと思っています。

*1:μは森下のμ