はじめてのヨーロッパ 〜ガウディとダリを訪ねて〜 Part6

昼食を食べていよいよダリのアトリエ、卵の家に突撃だ。
ポカポカ陽気なんだけど、海からの風は冷えきっていて結構寒い。平均気温は高いけど乾燥しているので、この時期に訪れる人は油断せず冬用の装備で来たほうがいいかもしれない。

ポートリガトの穏やかな入江に面して建っている卵の家は、美術館とは対照的な白く柔らかく温かみのあるフォルムをしていた。
向かい側にはダリの両親を住まわせていたという家があり、現在は受付兼クロークとして利用されている。リュックサックなどの荷物は(備品を盗まれないために)クロークに預けなければならないが、撮影なのでカメラを預けてしまわないように、とアンドリューから説明を受けた。
 
アンドリューがチケットを係員のお姉ちゃんに手渡していると、なんだかものすごく怒られている。チケットの枚数と我々の人数を比べて、
「あなた9人で来るって予約していたわよね! チケットが9枚あるのに、どうして7人しかいないのよ!」
と大激怒だ。そういえば遅れて来れない人が二人いたんだったっけ。多く払うんだからどーでもいーじゃねーかと思ってしまうのが日本人なんだろうか。怒りながら先導する彼女の後ろでアンドリューは我々に向かって(やれやれ)と肩をすくめてみせて、
「その足りない分はダリとガラの分なんだよ」
と彼女に向かって言った。すると、
「そうね!」
といきなりゴキゲンに。この急転直下ぶりがカタラーニャの特徴なんだろうか。これは大変だ。
 
時間を区切っての予約制になっているため、彼女に引率されてひとかたまりになって進む。我々の前後にも団体さんが入っているので、中は混雑していないもののコンスタンスにお客さんがいるらしい。飛び込みで入るのは難しそうだ。
屋内の立ち入り禁止区域に入ると直ちにブザーがなって、さっきのカタラーニャが鬼のような顔で駆けつけてくるので気をつけてね、とアンドリューが(頭の上に両手でツノを作って)注意した途端、アメリカ人の奥さんがブザーを鳴らしてしまう。一同爆笑。

クマがお出迎え。

美術館ではうわっ!と思ったけど、卵の家は奇妙なところはあるけれど落ち着く雰囲気で気に入った。

アトリエから、おだやかな入江を眺めながら作業していた。

美術館と卵の家は、さながら表の顔と裏の顔のようだ。創作の場は卵の中のように、殻で外界と仕切られている。

ダリはハトが大好きで、こんな素敵な鳩小屋を作っている。
といっても飼う方ではなく食べる方。ハトの脳はインスピレーションにイイ!と、毎日食べていたらしい。


プールはみんなで遊ぶところなので異常な雰囲気。
落ち着いて創作をする場所であっても、人に見せる部分では異常さを演出しなければならなかったのかもしれない。世界一のエンターテイナーとして期待されることの苦労を想像してしまった。
 

スペイン最東端

卵の家を見学した後は、山を超えてスペイン最東端の岬を見学した。風が強い!

北海道とは全然植生が違う。草も高い木もない荒れ野。
灯台の近くの喫茶店でコーヒーを飲みながらアンドリューの解説を聞く。iPadを使って動画(NTTのCMでダリが使われていた!)を見せてくれたり、本当にキメが細かい。惜しむらくは自分の英語力の無さだ。

バルセロナ帰還

アメリカ人夫妻の奥さんの調子がイマイチで、帰りは気を使ってのんびり運転だった。そのためバルセロナに着いたのは予定を大幅に遅れて21時過ぎになったけれど、自分も貝の食べ過ぎでおなかの調子がいまいちだったので助かった。さすがにあの量を一気食いしたのは無茶だったかもしれない。それでも正露丸を飲んだらすぐにおさまって、車の中では熟睡できた。正露丸最強伝説がまたひとつ・・・。
 
遅くなったけどこの日はほかに予定がないので特に問題なし。アメリカ人夫妻のホテルがカサ・バトリョの近くにあるというのでそこで解散となった。自分たちもその方がホテルに近いのでラッキー。今回のツアーは予想外の出来事が全てプラスに働いていた。LUCが上がるアクセサリでも身に着けていたのかもしれない。
アンドリューに「ガイドがとても親切だったので楽しめました」と伝えて、がっちり握手して別れた。意思の疎通がうまくできなかったので、彼の方でも僕らが楽しめていたか不安だったみたいだけど、いろいろ気配りをしてくれたお陰で全然不自由なく旅を満喫することができた。
 
エクスプローラカタルーニャのツアーは、ポートリガトがオフシーズンのこの時期は卵の家を訪れ、夏のリゾート客で混みだす時期はプボルにあるガラの城を訪問することになっている。プボル城も美術館になっていて、ダリの作品がたくさん展示されているそうだ。ダリ美術館と卵の家、プボル城を合わせてダリ・トライアングルと称されているので、次にバルセロナを訪れる際はぜひともプボル城を訪問して三角形を完成させたい。その時にもアンドリューに会えたらいいな!
 

夜のガウディ建築群

ちょうどカサ・バトリョの前だったので、帰りはガウディの夜景を眺めながら歩いてホテルに向かおうということになった。
 

夜のカサ・バトリョ


ダリを見てる時は「ガウディはまともで偉いな〜」と思っていたけどそんなことは無かった! 十分異常ですから!!
昼間よりもふつふつと異世界感を漂わせる。中ボスくらい住んでるな。

夜のカサ・ミラ


夜でも大通りは人の通りが多く、歩いていても安心。ここら辺は繁華街ではないけれど賑やかな通りで、酔っぱらいやさわぐ人もおらず、変に細い道に入らなければ夜でも大丈夫だと感じた。
 

夜のサグラダ・ファミリア


昨日見たのとは逆の、受難のファサード側から。公園には写真を撮っている人が他にもちらほら。
うわぁ。すごいやこりゃ。絶対ラスボス住んでる。いくら見てても飽きない。なんだ、これはなんだ、と違和感が語りかけてくる。なんかよくわからないもの、でも凄いことは伝わってくるもの。人のためというより、神のために作られたもの。神の価値観を推し量って作られたサグラダファミリアは、僕ら矮小な人間からするととてつもない違和感を感じさせる。それがとてもいい。
きっと、とっておきの非日常を提供する装置として神があるのだろう。神の英知を感じさせるためには、人間のセンスをはるかに超えた舞台が必要になってくる。次に海外に行くときも、神仏系のところを攻めたいなあ。
 
神を目指したガウディと、人のままで人を超えようとしたダリ。いいなあ。こんな二人を主人公にしたい。
 

プチ☆トラブル

昼と夜で違う顔を持つガウディの建築群を見て満足し、おなかも減っていなかったのでタクシーでホテルに帰ることにした。昨日と同じく、サグラダファミリアの出口付近にあるタクシーだまりにむかうと2台のタクシーが止まっており、僕らが近づくと手前側の車の色黒兄ちゃんがこちらに乗るように合図をした。ところが、乗り込もうとすると奥の方のタクシーから降りてきた白人兄ちゃんが何か文句を言ってきた。色黒が言い返すと白人の方はエスカレートして、身振り手振りを駆使して怒鳴っている。順番争い?
言葉が分からない僕らが「どうしようかな」という顔をしていると、色黒が「大丈夫だから!乗れよ!」という合図をするので乗り込んだ。それでも白人は車の外から激しく怒鳴りつけてくる。色黒兄ちゃんもさっさと発車すればいいのに、わざわざ窓を開けて怒鳴り返すのだから凄い。
言ってる内容はスペイン語なので全然わからないけど、やりあっているうちにどんどん単純になってきたので、
「お前の母ちゃんデベソデベソデベソ!」
「そういう奴の母ちゃんの方がデベソなんだデベソなんだデベソなんだ!」
ぐらいの罵り合いになっていたに違いない。目的地までたかだか6ユーロなので、ここまで怒らせてしまって逆に申し訳なく思った。
タクシーの待ってる順番が違ったのかもしれないけど、右側から乗り込むんだから右端に止まっているタクシーに乗り込むよねえ。
 
短いようで長かったスペイン滞在も今日で終わり。たった二日間だったけど、盛りだくさんで濃かったなあ。もう1日ぐらい泊まっても十分楽しめたと思う。もっとスペイン料理を食べたり、ピカソ美術館を見たり、ロープウェーで丘の上から夜景を見ても面白かろう。だけど多分、「また来たいな」と思ってるぐらいが一番の引き際なのだ。どうせまた来るのだし。
 
明日はオランダに向けて出発。風車とチューリップが僕らを待っている〜。