片っ端から食い散らかせ!

ミノタウロス

ミノタウロス

半人半獣の男たちが東欧の大地を縦横無尽に駆け回る。食って食って食い散らかして、本能のままに略奪を繰り返す様は、佐藤賢一の『傭兵ピエール』での中世時代となんら変わりはない。ああ、近代に残された最後の乱世であったのだな、と感慨深く感じた。
それだけ野蛮にもかかわらず下品さを感じさせない文体は素晴らしい。主人公たちの境遇の移り変わり方が見事で、特に終盤は一気に読みほしてしまった。
全体的に重厚なテーマにも関わらず読後に消化不良感を残さないのは、作者自身がこの作品世界を熟知しつつ、何度も頭の中で噛み砕いてから出てきた作品だからではないか。きわめてマイナー(だと思われる)背景は、ともすると設定だけの頭でっかちになることもあるが、この作品には作者の作品世界への愛が感じられる。
 
少しヘビーだが読み応えのある作家。集中して読んでみたい。
125/200
 

あとはマンガ

バクネヤング 1 (ヤングサンデーコミックススペシャル)

バクネヤング 1 (ヤングサンデーコミックススペシャル)

すごい。作品の凄みがすごい。完全にいっちゃっている。書き込みの線一本一本に執念を感じる。そして、キャラクター全員が異常者だ。とはいえ、作品の魅力はそれに終始するのではなく、アクションシーンの斬新さはかなり新しいものがあるし、特に目線の置き方が映画以上に映画的で良かった。
こういう(いい意味で)狂ったマンガが描ける人が、なんだかんだでスポイルされてしまっているのは悲しい現実だけど、まあ、あんまり売れないだろうなとは思うのだった(笑)
 
多重人格探偵サイコ (11) (角川コミックス・エース)

多重人格探偵サイコ (11) (角川コミックス・エース)

11巻まで一気読み。
本当はホラー物は苦手なので恐る恐る手に取ったのだが、意外とあっさりしていて読みやすかった。死体は出るけどグロくない、裸は出るけどエロくない。どちらかというと、死体ではなくて彫刻作品のような感じ。
そういう意味では後半になって単にたくさん人が死ぬようになってからはイマイチ。死体に生々しさが無い分、マネキンがゴロゴロ転がっているだけのような印象を受けてしまう。物語の風呂敷も広がりすぎて興ざめ。
作品の前半部分の、いかにして猟奇的に人が殺されるかがテーマになっているあたりまではすごく良い。殺される人に"重み"があったし、グロくない分純粋にその重み、人間の死とは、みたいなことに思いをはせることができたのだけど。
 
セイバーキャッツ 1 (ニュータイプ100%コミックス)

セイバーキャッツ 1 (ニュータイプ100%コミックス)

意外に、と言ったら失礼だけどかなり面白かった。
SFとカンフーの組み合わせと言えば『銃夢』だけど、こちらはもっと紳士的かつストイックな空気が漂っていて、どちらかというと『拳児』に近い雰囲気。
ストーリーもピリっと短くまとめられていて気持ちがいい。アニメ化してもワンクールでぴったり終わるだろうと思える感じ。
こういう気持ちのいい中編を読むと、マンガは5巻ぐらいまでが一番面白いんじゃなかろうかと思うね。最近のマンガは長いものが多い上、その大半が引き伸ばすだけを目的としたストーリーになってしまってグダグダになっているし。映画にしても小説にしても、ほかのジャンルのもので一つの作品がこれだけ長く続けられるものってあるだろうか。あるか。