函館市電運転体験会

去年は惜しくも抽選に外れたため地団太を踏んだけど、今年は見事当選!
てなわけで、駒場車庫で開催された函館市電運転体験会に行ってきました。
あいにくの小雨は残念だけど、天気予報ほど崩れなくて良かった。
客層はもちろん”鉄分”の高いお客さんが多いのだけど、カップルはともかく女性一人だけのお客さんもいたりしてちょっと意外だった。普通に観光? それとも噂の鉄子さんですか?

説明会場がカラオケ電車とは憎い演出。
 

技能講習

全員揃ったところでまずは五稜郭公園前までの区間を往復しながら、電車の運転についてのガイダンスを受ける。
 
まずはマスター・コントローラ略してマスコンの説明から。

車で言うとアクセル。レバーを時計回り方向に回すと電車が走り出す。
OFFの目盛からこっち側に4つ目盛があるのが分かると思うけど、これを動かすと"抵抗"の数が変わる、というのが面白かった。さすが”電”車。目盛が増えるごとに抵抗の数が減って、モータに伝わる電力の量が増えるという仕組みになっている。
操作のポイントとしては、

  • レバーを動かすときは、進むときはゆっくりで、戻すときは一気に。
  • 加速→惰性を繰り返して進ませる。

電車に乗っているとよく『ガゴンガゴン!』と勢いよくレバーを動かしている音が聞こえるけど、このレバーは直接600ボルトの電流が流れるコイルとつながっているため、ゆっくり戻していると火花が散って危ないからだそうだ。
一度加速していい速度になったら、あとは惰性で次の駅を目指すのも電車ならでは。車だと、アスファルトとゴムのタイヤの組み合わせで抵抗が大きく、すぐにとまってしまう。鉄の軌道と鉄の車輪だからこそ惰性運転が可能なわけですね。う〜ん、環境に優しい。

これがスピードメータ。小っさ! あまり見ないんだろうな、という気がする。
 
次にマンスバルブ、いわゆるブレーキの説明。

この写真のレバーがブレーキレバーなのだが、右に回すと圧縮空気が送られてブレーキが車輪に押し付けられてブレーキがかかり、左に回すとエアが抜けて圧が下がってブレーキが離れる仕組み。
右に回している間はずっと圧が上がり続けるので、写真中央のメータを見ながら*1いい圧力になったところで正中に戻し、あとは”いい感じに”圧を抜いたりかけたりしてスムーズに電車を止める。感覚に頼る部分がかなり大きいそうだ。
操作のポイントとしては、

  • 自動車などのブレーキとは違うので注意が必要
  • 運転がうまい人=ブレーキがうまい人
  • うまい人は1回(エアを)入れて、2回抜く

入れてから抜く、というのは自動車のブレーキでもよくやる動作だなあ。説明を聞いているだけでは、違いが良く分からない。
 
五稜郭公園前からの帰り道、運転席をじっくり見て良いよというので、プロの技を必死で盗む。
ブレーキは圧力が2kgぐらいのところで戻して、完全に止まるときは1kgぐらいにまで抜いているようだ。なるほど。
普段電車に乗っていても、マスコンのほうは出口に近いから見られるけど、ブレーキのほうは見えない位置にあるのでなかなか見る機会がなかった。だけど、見ていても制動のかかり方がわかりにくい。レバーの動きより何テンポか遅れてからブレーキが利くという感じで、とにかく難しそうだ。
 

指導講習

駒場車庫に戻り、いよいよ運転体験開始! の前に指導講習が待っている。
受付順に名前が呼ばれるので待っていると、なんと参加が二回目以降のお客さんは最新鋭のシミュレータを体験しながら待つとのこと! なんて卑怯ないたれりつくせりなんだ・・・っ!
一見様である私は、カラオケ電車内で市電のイメージビデオを見ながらじっと我慢の子。でも早めに会場に来たおかげで、最初のほうに呼び出しを受けた。早起きは三文の得だなぁ。いそいそと別室へ向かう。

どどーん、と市電の台車が鎮座している。大迫力。マスコンを動かすと実物と同じように回ったり、ブレーキがかかったりする。これを見ながら事前に運転の練習をする。それでは出発進行!
 

  1. ドアが閉まっているか確認し、
  2. レバーが進行方向に向け、
  3. マスコンのノッチを「1」に入れ、
  4. ブレーキのエアを抜く

 
車輪がぎゃぎゃぎゃぎゃーーーーんと轟音を立てて回り出した。マスコンを正中に戻すが、それにしても凄い音だ。隣の指導員の話も全然聞こえない。次に停止だ。
 

  1. バルブを右にひねる
  2. いい感じに圧が高くなったら正中に戻し、
  3. 止まる寸前に少しだけエアを抜く

 
ぎぎゃぎぎぎ・ぎ・ぎ
止まるには止まったけど、本番はうまくいくのか? 少し不安。
 
指導員さんが話しやすそうな人だったので質問。
マスコンにもBRAKEって書いてあるのはなんでですか?」
「エアのほかに電気ブレーキも装備してあるんですよ」
「え〜と、回生ブレーキみたいな?」
「ちょっと違いますね、やってみましょう」
と言って指導員さんはマスコンを右に回して車輪を回転させ始めた。そしてブレーキレバーとともにマスコンを一気にを左へ回す!
ガガン!
猛スピードで回転していた車輪が一瞬で停止しているっ!!
「分かりました! モータに逆の電気を流して一気に止めるんですね!」
「その通り。エアブレーキは車輪に押し付けるだけだけど、電気ブレーキは車軸ごと動きを止めるからね。人や車が飛び出してきたときなど、緊急時はこうやって止めるんです」
(す、凄い、けどモータから煙出てるwww)
 

運転体験

いよいよ待ちに待った運転体験がスタート。
車庫内の約100mのコースを、3回走らせてもらえることになっている。
その前に帽子を被って記念写真。これは後日ポストカードになって自宅に送られるそうだ。本当にサービスがいいなぁ。
コースは直線だけ。反対側にも運転手さんが座っていて、行き止まりまで進むと逆方向に運転して元の位置に戻してくれます。
練習用のコースだけあって、

電柱にノッチオフとかブレーキとか書いてあってわかりやすい。
外から見るとこんな感じ(戻るとき)。

運転体験は本当にあっという間だった。しかも3度ともブレーキを抜きすぎてイマイチ。車より転がることを計算に入れていなかったのが敗因か。次回の教訓として活かしたい。

音声注意(笑)
 

車庫見学

終わったあとは車庫内を見学できるので、カメラ片手にぶらぶら。

ポイントっていいよね。一番左側、白い電車の隣のレールが今回の運転体験用になっている。

出発前の530系。自分はこの型が一番好きだ。子供の頃何度も乗った、思い出深い車両である。
飽きずに見ていると、案内の職員の方が、
「ハイカラ號が戻ってきたので自由に見てください」
とのこと。なんという気配りの良さ。

明治時代の復元チンチン電車と、最新鋭の二両式低床車が並び立つ!
実はハイカラ號に乗るのは今回が初めて。らっくる号は夜も動いているから通勤で乗る機会があるけど、これは完全に観光用だからね。

車両下部の絞りがたまらない。

車内もハイカラ。

運行表もパチリ。これでは乗る機会がないなぁ。

親切な方に写真も撮ってもらいました! ありがとうございます。
 

工場内見学

予定では12時前に終わるはずだったんだけど、スケジュールより1時間ほど遅れて全員が運転体験終了となった。抽選で落とすのは忍びないため、限界以上に多くの人を参加させたためだという。やさしいねぃ。
最後は工場の中を見学して〆。

あの〜、整備場というか町工場みたいなんですけど・・・。
「電車の部品はマイナーかつオーダーメイドなので、業者に注文しても届くのに半年かかったり、旧い車両だったりすると在庫がなくなっている場合もありますので、こちらでだいたいの部品は作れるようになっています」
すげ。なんという地産地消。

車輪だけになった台車。3年に一度、こうやってばらしてヒビなどがないか確認するそうな。

これはオーバーホールされた車輪。ん? 車軸と車輪が全然固定されていないように見えるぞ。
「車輪を車軸に固定するときは、自動車のようにボルトで止めることはせず、焼きどめといって、車輪に電気を流して高熱にし、膨張させて車軸を差し込む方法をとっています。ボルト止めだと回転軸がずれることがあるため、こちらの方式をとっています」
なるほど。

これはパンダグラフ。黒い棒は電線に接触する部分で、炭素でできている。触ると本当に鉛筆の芯みたいな感触でびっくり。

最後はレストア中の車体本体。広告をはがすと中はサビサビ。これをきれいにして、新しいラッピングに張替えて、また走らせるのだそうだ。なんてエコ。
 
そうなんだよね。電車はかなりエコロジーなのだ。
この車庫だって昭和9年築(!)のものをそのまま使っているというし、車体だって都電の中古をレストアして使っていたりと、かなり環境に優しいのだ。
もともと電車は環境負荷が小さいし、高齢者にも優しい21世紀の乗り物なのに、自動車においやられて肩身が狭い状況にある。今回のようなイベントも素晴らしいけど、今だったらエコ方面に強くアピールしたほうがいいんじゃないかな? とは思った。
  

交通局の人の「市電にもっと親しんでもらいたい!」という気持ちが伝わってくるようないいイベントで、とても楽しかった。
鉄道ファンだけじゃなくて、もっとたくさんの人に体験してもらって、函館の財産としてみんなに認知してもらえればいいなと思う。いつかまたガス会社前経由が復活してくれないかな〜。

*1:スピードメータと比べると重要さがよくわかる