ずぶずぶと深い沼に

ものすごい求心力。一章、また一章と読み進めるたびにずぶずぶと底なし沼に沈むように作品にとらわれてしまった。今年最高の一冊。
 

私の男

私の男

 
僕が桜庭一樹にほれ込んでいる一番のポイントは、彼女の描く少女の、その小さな体からあふれださんとするエネルギーと、だけどそれを制御しきれない非力さとが同居するアンビバレンツさがたまらないからなんだけど、今作ではそれがさらに昇華され、少女の持つのエネルギーの源が何であるのかが明かされていたところが素晴らしかった。
 
その源とは、女性が一人にして3つの顔を持っていること、母親であり、女であり、娘であること。
"赤朽葉家"でもそれを語ろうとしていたのだけど、三代記では婉曲すぎて伝わらなかった節がある。今作にて一人の女の中に3つの顔を共存させることで、初めて"少女"という存在の底の知れなさ、奥に秘められた力を明らかに語ることができたのではないか。
生命の根源たる女性のうちに隠された、生命の根源としてのどろどろとして混沌とした力。それはあまりにグロテスクで直視しがたいものだけれど、だからこそ本能的に抗いがたい魅力があるのだろうと感じた。
 
 
それにしても作者本人が大好きだと言う、だらしない男の魅力といったらない。美しく、退廃的で、それ以外には何の取り柄もないのだけど、その魅力の前ではどんなに強い力を持っている女も屈してしまう。巣から飛び立った女王蜂とオス蜂のように、美しい女と、美しい男とは絡み合って踊る・・・。なんとも羨ましい限りです。