いつまでも終わらないたった一晩の大冒険
映画「夜は短し歩けよ乙女」を見てきました。
アニメ「四畳半神話大系」は当然見ていたし大好きだし、湯浅監督と森見登美彦のコラボなのだから間違いなく凄いものになっていると期待して観に行ったのですが、
期待以上
のすごい作品でした。
ほっこりとしていて混沌としていて魅力的な森見登美彦ワールドがわずか1時間半あまりの上映時間にぎゅうぎゅうに詰め込まれていて、膨大な情報量の波に押し流されるような体験をしてきました。これは良いです。良い良い。
万人向けではない
すげー良いんですが、誰が見ても面白いというわけではもちろん無いです。
基本的に森見登美彦ファンでなければ楽しめないと思います。さらに応用的に言えば「四畳半神話大系」の原作は当然としてアニメも見ている人が対象。この「アニメも見ている」というところは重要で、作品世界が繋がっているわけではないんですがスターシステムなので、ところどころに共通のモチーフの登場人物がいるんですね。ジョニーとか。
そこらへんをよく分かっていると楽しめるけれど、主人公の声優を星野源がやっているからといって何の気なしに見に来て楽しめるかというとちょっと難しいんじゃないかな。
とはいえ劇場はほとんど満員でしかも女子率も高く、主題歌のASIAN KUNG-FU GENERATIONやキャラクターデザインをした中村佑介のファンも多く混じっていたのかもしれません。だけど全体的にポップにかわいくまとめられているので、映画から森見登美彦ファンになってくれる人もたくさんいたんじゃないかな、という気もします。
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見に来る人には花澤香菜ファンというのもあるのか……。
映画の魅力/作品の魅力
それにしても、青春期を暗くカビ臭い四畳半で過ごす青年のうじうじとした日常を大鍋で煮込んで煮込んで煮詰め尽くしたあげくに、その残滓をすくって舐めてみたら幻覚作用があったみたいな感じのドロドロと混沌とした森見登美彦ワールドがおしゃれに蘇って若い女の子から支持されるだなんて、なかなか感慨深いものがあります(皮肉ではなく)。
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森見登美彦作品の魅力といえばもちろん、童貞特有のしちめんどくささを面白おかしく書いているところですよね。乙女でいうならナカメ作戦。好きな女の子に直接話しかけるのは勇気がいるから、「なるべく」「彼女の目に」「とまる」ように振る舞ってみたり、処女かよ!と突っ込みたくなるような初心なめんどくささ。
昔読んだ恋文の技術もそのような小説でした。童貞を極めると処女っぽくなってしまうのか……。いや、だからこそその童貞特有のめんどくささをポップにかわいらしく、純潔さといじらしさに置き換えることができるのかな。まあ、それができるのは湯浅監督だけだと思うんですが。
原作本を渡されて「これ流行ってるらしいからアニメ化して」って言われて作ったのだったらこんな傑作にはならないんですよ。原作が好きで敬愛していて、さらにそれを映像として見せるためにはどうしたら魅力をもっともっと引き出せるのか、そういうことを心底から考えて作ってあるからアニメ「四畳半神話大系」は凄い作品になったし、「夜は短し歩けよ乙女」も最高の作品になったわけです。
さっき、四畳半神話大系と夜は短し歩けよ乙女は繋がっていないけれど同じ森見ワールドという地平にあるというようなことを書きましたが、原作とアニメもまた同じ地平に立ちつつも独立した作品であるということなんですよね。だから原作を読んでいてもなお新しい発見があるし、監督の切り口に驚いたりすることができる。
森見登美彦作品の中では「夜は短し歩けよ乙女」が一番好き
自分は後発の作品もほとんど読んでいるんですが、やはり「乙女」が一番好きで、それはやっぱり乙女が森見ワールドの根本であるからだと思うんですよね。森見登美彦の原点であると言ってもいい。原点だから文章も構成も後発の作品と比べると全然未熟で混沌としているのですが、そのなんだかよく分からないごちゃごちゃとしたところに森見登美彦の魅力がすべて詰まっているように思えます。
結局のところ小説家というものは自らのうちにある創作の塊みたいなものを削って作品にしていくものですが、そういう大元の部分が未調理のままゴロッと食卓に出されたようなところが自分は好きです。
そーゆー意味では自分はまだ、そういった塊の部分をまだ出していないなあ、とも思ったのですが、それはまあ余談ですね。
劇場特典が必見
映画本編はもちろん素晴らしかったんですが、劇場特典でもらった小冊子が良かったです。
先輩と乙女の後日譚が書き下ろされているんですが、これを読むとさらにしみじみと感動が深まってきました。アニメもいいけど、原作はいいよねえ。近いうちに読み直さなくっちゃ。