将棋の振り駒について考えてみた
将棋でどちらが先に指すかを決めるために、振り駒というルールがあります。
5枚のうち、歩が多かったら目上の人が先手で、裏側の”と金”が多かったら目上の人が後手番になります。ふたりで将棋をする場合は「振り歩先」と言って、歩が多かったら駒を振った人が先手になります。
立ったり重なった場合はノーカウントなので、裏か表かのどちらかが出ることになります。1回の事象であればこのやり方でもかなり正確になることは、将棋連盟の統計で明らかになっているとのこと。ゲンミツには駒の形状の違いで変わってきそうなものですが、数千回程度では誤差の範囲に収まるみたいです。
ところが、いかに正確に50%の確率で先手と後手が決められようとも、確率なので偏りが出てしまうのも事実です。たとえば過去に森内九段は、羽生さんとの対局で自分が後手になる確率があまりに高く、自宅で数千回ほど振り駒をして確かめたことがあるという逸話があるくらい。
だけどまあ、確率が2分の1だって、10回連続で同じ目が出ることだって十分ありえますからね~。
羽生・森内クラスの宿命のライバルならば百局以上指すこともありますが、同じ相手と対局する数は通常一桁、多くても10局そこそこです。そうなると、将棋界全体で見たら50%でも、同じ対戦相手で先手と後手に偏りが出てしまいがちになります。たとえば同じ相手と10局指した場合の先後のパターンは以下のとおりになります。
10回続けて後手番になる可能性は0.977%。滅多になることではありません。だけど10局中7局以上が後手になる可能性は約17%もあります。確率的には普通にありえますが、ダブルスコアを取られたら「オレ、後手ばっかり引いてるな」と思うかもしれません。
というところで本題ですが、渡辺明竜王がブログで振り駒問題について書いていました。
奨励会では同じ相手と当たる時は、先手後手を入れ替えているんですね。確かにそれだと有利不利は多少軽減されますが、奨励会と違ってプロ棋士はその時々での棋戦の重みが違ってくるので難しいところがあるかな、と思いました。それと、先後があらかじめ決まっている棋戦が間に挟まったらどうしよう、とか。
最初にこの記事を読んで思いついたのは、「振り駒の枚数を増やせばいいんじゃね?」というアイデアでしたが、振り駒は独立事象だから意味無いですね。盤上の全ての駒をばら撒いたら面白いけどw
っていうかそもそも40枚じゃ偶数だから、同数の場合にどうすんだよ、とセルフ突っ込みを入れたところでひらめきました。偶数枚振って、同数だったらこれまで後手を多く引いている人が先手になるというアイデアはどうだろう。
先ほどの表を引用すると、仮に振り駒が10枚だとしたら歩が5枚以上出る確率は67.12%です。後手番を多く引いている人が3回に2回は先手番が取れるし、先手番を多く引いている人にもそれなりにチャンスがあるというシステムです。
3回に2回では多すぎると感じるなら振り駒の枚数を増やしていけば(同数の可能性が少なくなるので)確率は近づいていきます。たとえば、40枚で振り駒をした場合に20枚以上歩が出る56.27%。よし、40枚でやろう\(^o^)/
まあ、実際はこーゆーややこやしい方法は取られないと思いますけどね(^_^;)
先後の偏りで勝敗にも影響が出るのではないかという懸念が
ちなみに同じ実力の者同士が対局した場合、先手の勝率は約52%だと言われています。
100局指して52勝48敗ならまあ、圧倒的互角ですね。でも前述したように、振り駒の偏りがあった場合に戦績に大きな影響があるのではないか! というおそれがあります。
というわけで、先手番の勝率が52%の場合、10局中先手が7局、後手が3局だった場合の期待値を求めてみました。まずは先手番で何勝できるかの確率です。
勝ち数 確率 期待値 7勝 1.03% 0.07 6勝 6.64% 0.40 5勝 18.40% 0.92 4勝 28.30% 1.13 3勝 26.12% 0.78 2勝 14.47% 0.29 1勝 4.45% 0.04 0勝 0.59% 0.00
勝率52%なので、4勝する可能性が3勝する可能性よりも高くなっています。確率50%なら3-4も4-3も等しくなりますね。こうして並べると、全体的に勝ち越しそうな雰囲気が漂っています。ちなみに期待値は「確率✕勝ち数」。
続いて後手番で何勝できるかの確率です。
勝ち数 確率 期待値 3勝 11.06% 0.78 2勝 35.94% 0.29 1勝 38.94% 0.04 0勝 14.06% 0.00
さて、それでは先後の確率を足し算してみましょう。勝率52%の対局を10戦して先手が7局あった場合の期待値は、
5.08
なんと、先手勝率52%を下回ってしまいました。それはそうですね。先手番全体の勝率が52%ということは、先手でも後手でも指す一人の棋士としては、勝率は52%より落ちてしまうのは当然です。ちなみに今の例で先手番が5局だった場合は、期待値はぴったり5! 10局して5勝! 普通だ\(^o^)/
というわけで数学的な結論としては、多少確率に偏りがあっても、勝率に寄与する側面はかなり小さいということが分かりました。
先手番のほうが主導権が握りやすいとか気持ちいいとか、気分的な側面の方が大きいところだし、将棋というのはメンタルなスポーツなのでそーゆー精神面も大事だとは思うんですが、その割に(最大でも)52%しか先手番が勝てないというのは、手番の影響は指し手が感じているよりもずっと小さな差である、ということですね。