シン・ゴジラは究極の社会人向け映画だった
金曜日は午前中から課内会議と部長レクが続いて日中に自分の仕事が進められず、職場を出たのは定時を大きく回った後だった。これから帰って夕飯を作って食べるには疲れすぎているし、暑すぎる。そこで気分を変えて、この日公開されたばかりの『シン・ゴジラ』を見に行くことにした。
自分はエヴァンゲリオンのファンなので庵野秀明監督のことは応援しているけれども、正直言って「いまさらゴジラ作るのかよかよ」という気がしていた。中学生の時に友達と三人で電車に乗って映画館まで観に行ったゴジラ対ビオランテが最初で最後なのだが、その当時から子ども向けのビッグタイトルという印象が強かった。東映という巨大な斜陽産業がゴジラというかつての栄光にしがみついているのは、まるで大日本帝国が戦艦大和に最後を託したかのようだな、という諦念のようなものもあった。
もしかしたら映画館を出た後に残るのは失望だけかもしれないけれど、庵野秀明なら、打ち破ってくれるかもしれない。ダメであっても(エヴァンゲリオン新劇場版のように)逆方向に突き抜けてくれるかもしれない。そんな思いを胸に映画館へと向かった。
そして思いは裏切られる
しかしそこで僕たちを待っていたのは、とてつもないリアリティだった。
ゴジラが「もし今の日本に現れたなら」。
劇場のスクリーンで展開されていくのは、まさにそのシミュレーションだった。
怪獣が上陸したなら自衛隊が攻撃したらええやん。そう思うのは浅はかで、法治国家であるこの日本では拳銃弾一発を撃つのであっても膨大な手続きが必要になるのだ。
会議、会議、会議。不規則発言は許されず、既定路線は守らねばならず、関係各所に配慮しつつ、丸く丸く進めて行こうという日本的システム。全員が極めてまじめに自分の職務をこなしているだけなのに、なぜか笑えてしまう。
今まさに怪獣が暴れまわっているのに何をやっているのかと、早くミサイルでもなんでも撃ってしまえばいいだろうと思ってしまう。だけど言っちゃ悪いけど現実はそんな簡単なものじゃない。失敗したらどうする? 成功してもその後は? 実行したその後のことまで決めておかなければ実行できない/実行してはいけないのだ。
世の中は単純なものじゃない
世の中には二種類の人間がいる。実行する人間とそれを管理する人間と。映画だけでなく娯楽作品のほとんどで主役は実行部隊であり、管理者側は主人公の足を引っ張る面倒くさい奴らとして描かれることが多い。だけどそれは極めて子どもっぽいヒロイズムなのだ。
世の中はひとりの人間のスタンドプレイで変えられるほど甘いモノじゃない。だから、戦って勝った後も生活を続けていくためにたくさんの人間の協力が必要で、だからこそそのためには全員が納得するやり方を、めんどうでも手間がかかっても模索していかなければならない。
それが社会。
それは分かっている。分かっていても、
いま、
ここに、
ゴジラがいるんだよ!!
会議なんてやっている場合なの??
そんな焦燥感に駆られてジリジリとする主人公と自分の気持ちが一体化していく。戦闘ヘリが数機飛び立つだけで「待ってました!」と感動できる怪獣映画なんてないよマジで。
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シン・ゴジラは大成功だった
詳しくはネタバレになるので避けるけれど、笑いあり、絶望ありで、気持ちは高ぶるし最高にカッコいいし、日本映画もここまでやれるじゃん! と感じた傑作だった。
配役もハマっていて、主人公を演じる長谷川博己がどんどんカッコよく見えてくるのが良かった。最初は発言力もないただの出しゃばりで、しかも後ろにスーパーイケメンの高良健吾(この人はイケメン官僚がよく似合う)が控えているからイマイチぱっとしないんだよね。それが修羅場をくぐっていくに連れて男らしさが磨かれていく。
そしてヒロイン役の石原さとみ、日系アメリカ人の大統領特使役なんだけど、これが非常に、滅茶苦茶うさんくさくて良かった。
基本的に最近の邦画の女優は事務所のゴリ押しでねじ込まれてくるからだいたいにおいて顔だけ良くて演技はクソで、映画をぶち壊すためだけに存在しているパターンが多くて辛いんだけど、そこを逆手に取ったところが痛快。日本語の発音があやふやなのもアメリカ人なら仕方ないし、やたらと登場シーンが多くて各所で出しゃばってくるのもアメリカ人なら仕方ない。外圧が強いですからね!!!
一方で課長補佐役を演じていた市川実日子さんが非常に好演で、最高にリケジョだった。石原さとみと二大ヒロインだよなあ。自分は市川さんの方が好きだなあ。
妥協しない男はカッコいい
シン・ゴジラの矢口蘭堂と、庵野秀明が声を演じた風たちぬの堀越二郎にはどこか重なるところがある。どちらも妥協することなく、最善を尽くしてひたむきに努力する姿にカッコよさを感じるのだろう。
現状に甘んじず、かと言って現状を快刀乱麻に打破するのでもなく、現状の枠組みの中で最前を尽くす。そこがいい。
スーパーなアイデア一本ですべてが解決するほど世の中は甘いモノじゃない。にも関わらず/だからこそ地に足の着いたやり方で地道に自分ができる戦いをしていかなくてはならず、そしてその積み重ねがあればゴジラだって倒すことができる。
だから残念ながらシン・ゴジラは超名作なんだけど、全年齢向けでは全然ない。社会に出てある程度たって、世の中の辛さもめんどくささも分かったうえでそこで頑張っていこうと、決めた大人の社会人向けだと感じた。
映画は大人が見るものなんだから、子どもだましじゃダメなんだよ!
蛇足
↓これは完全に現状に負けた大人の言い訳。カッコ悪い。
だいたい「今の日本映画はつまらない」とか「神目線」言う人間は、例えば予算のない現場で制作のスタッフがしょぼい弁当をリカバーするために必死で
味噌汁作ってキャストやスタッフを盛り上げようする矜持すら知らない。俺はそんなやつらは一切信じない。勝手にほざいてろ。
http://b.hatena.ne.jp/entry/twitter.com/YasuhikoFK/status/718824117370093569
みたいな、外圧に巻き取られてしまった日本の映画人たちに対するアンチテーゼのようになっていたのも痛快だったなあ。
CGの技術ではハリウッドには勝てなくても、勝てないものをそのまま出すんじゃなくて、勝てる形に仕上げて戦うところが素晴らしかった。これが本当の日本人の戦い方なんだろうな。
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これであとは心置きなくエヴァンゲリオンの最終話に向けて全力を尽くせるはず。死ぬまでに見ることができますように!
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