公立はこだて未来大学開学10年記念講演会 羽生善治「情報社会における将棋の未来」〜前編〜
はこだて未来大学で開催された羽生名人の講演会に行ってきました。函館に講演にくるのはこれが2回目ですね。前回のレポートはこちらです。
プロ棋士はどう考えているか 〜前編〜 - 鵜の目鷹の目
プロ棋士はどう考えているか 〜中編〜 - 鵜の目鷹の目
プロ棋士はどう考えているか 〜後編〜 - 鵜の目鷹の目
3年前に比べると腰を据えて将棋を見てきたので、羽生名人の棋風というか凄味が以前よりも理解できており、そういう意味では3年前よりありがたみをもって講演を聞くことができたと思います。
今回も講演の内容をメモしてきたので、自分なりにまとめてみました。
将棋のルーツについて
- 将棋は元々華道や茶道のように家元制だったが、近代から実力制になった
- 華道と違って勝負がはっきりする
- 「うちは○○流だからこういう手順です」というのが通じない*1
- 着物や駒の並べ方など伝統が残っている部分もある
- 伝統には(なぜこう並べるかなどの)理由が無い
- どんどん現代風のやり方に代わっていっている
- これまでの将棋は「データ軽視」「腕力重視」だったが現代ではまるで逆
- 定跡の体系化が進んでおり、100年前の将棋差しが現代に来ても絶対に勝てないと思う
将棋と知識・情報について
- 将棋の定跡、知識や情報は相撲の立ち合いに似ている
- どんなに力自慢でも良いところを掴まれては勝てないように、現代将棋では力戦になる前に勝負がつく
- ただし、今の時代は誰でも情報に手が届くので差がつかない
- 差がつくとしたら力戦となったときなので、結局は昔と同じかもしれない?
- バサロ泳法と現代将棋は似ている
- 潜水部分が定跡、浮き上がってからが力戦。現代将棋は力勝負の部分がすごく少ない。
現代の将棋について
新手を生み出すことについて
- ひとつ新しい手を生むためには大変な労力が必要
- 新手の対策を練るのは作るよりずっと簡単
- 一昔前ならひとつの新手を考え出せば2、3カ月は使えたが、今ではすぐに広まってしまい2、3日で対策される
- 創造的なことをしても労力が報われない
- 情報を集めても、それが先入観となって発想を妨げることがある
将棋界の今後について
- 序盤に優劣が決まるため一手一手に制約がある
- その中で自分のカラーをいかに出していくかが大事
- 将棋の面白さは「自分が指したい手を指す」ことではなく「相手の手にいかに対応するか」だと思っている
- 応手を用意しておいて手を渡す
- 自力ではなく他力で指す部分が大きい
- 棋士が何時間も悩むのは、指す手は決まっていてもその手でいいか迷っているから
- 自分が指すのではないから悩む
ここで加藤一二三九段のエピソード。加藤九段は対局中に自分の席を立って対局者の後ろから盤面を見ることを良くするが、自分がやられたら迷惑だけど(笑)気持ちは良く分かる、という羽生名人の告白に会場は大爆笑でした。ひふみん人気はすごいな〜。
羽生名人の将棋観について
- 情報は簡単に手に入るようになったが、棋譜データベースを眺めているだけではすぐに忘れてしまうので、大事な棋譜は紙に印刷して実際に手で並べ、五感を使って記憶している
- 将棋を勉強するのはジグソーパズルを組み立てる作業に似ている
- ひとつひとつは意味の無いピースでも、情報が集まるにつれ全体像が見えてくる
- 今は将棋指しになるのにバックグラウンド(親やライバルなど)が重要では無いのでいい時代だと思っている
- 純粋に資質のみで将棋指しを目指すので、差がつきにくく厳しい環境になっているのも事実
ここまでで前半終了。3年前の講演と共通する話題も多かったのですが、それぞれ考え方が深化している部分があって非常に興味深かったです。
この後はおなじみ松原教授との対談、の予定だったのですが教授がインフルエンザに罹ったとのことで(!)急遽、電気通信大学の伊藤教授がピンチヒッターをつとめました。後半の模様はまた明日書こうと思います。