いい短編、普通の短編

まずは直木賞候補作5作目。
 

ベーコン

ベーコン

 
なんというか、実に女性らしい作品でした。
女性の作家の短編には、読み終わるたびに心の深〜いところ、地球の核のような部分がごろごろと揺れ動くような気持ちになることが多いのです。他人の目に見えない部分が、自分だけに聞こえる「ご、ご、ご、ご、ご」と音を立てて回っているような。三浦しをんの『私が語りはじめた彼は』もそうだったし、恩田陸の『図書館の海』もそうだったなぁ。
 
表題作の『ベーコン』を筆頭に、料理をモチーフにした作品で統一されているのですが、実は裏のテーマは"家"ではないかと感じました。
料理を作る場所、暖かい居心地のいい場所としての台所は、家族の心のよりどころです。そこに忍び寄る不安や、疑いや、悲しさを、淡々とただ、そこにあるのが当然のように書き出す技術が良かったです。きっとそういったところに、心の奥底がうごめくような感触をおぼえるのでしょう。
 
後半の3つの短編はあまり感情移入できなかったのが残念。『キーマカレー』までは面白かったんですが。モチーフがどれも似通っているため、続けて読んだせいで飽きてしまったのか・・・。食べ物だけに、食傷気味です。
 
90/100
 
 
映画篇

映画篇

 
こちらは「本屋大賞」の候補作。『警官の血』はまだまだ読めそうも無いので(上下巻だし・・・)ちょっと寄り道です。
 
感想は・・・良くない。非常に良くないです。先に読んだ『ベーコン』と比べると、特に良くない。
物語自体の作りは悪くないと思うのですが、そこに加えるスパイスが強すぎて台無しになってしまった感じです。
例えば、『ドラゴン怒りの鉄拳』という短編。ビデオショップの店員と、夫に先立たれた女性の恋愛を描いているのですが、「勇気が出ますよ」と言って店員が貸してくれたビデオを見て元気付けられたり、彼が学生時代に撮ったという映画を見せられて感動したり、そういった所はすごくいいのに、そこになぜか薬害問題を絡めてくるからタチが悪い。ブルース・リーの力を借りて立ち向かうにしろ、あまりにキャッチーだな、と感じました。
 
なんというか、全体的に「たいしたことないことを、大げさに語る」印象が強いです。そういうのが好きな人には、好きかな。自分にはちょと・・・です。
 
91/100
 
 
去年の4月10日から初めた年間100冊の目標まで、あと10冊を切りました。結構読めてない時期もあったと思うのですが、このペースだと予定より1ヶ月くらい早く目標を達成できそうです。
たくさん読んでるようで、まだまだ読みたい本はたくさんあって、積みあがった本の山を見て途方にくれる時もあります。本当はやりたいこともあるけれど、とりあえず読書に逃避しているような気になることも・・・。とあえず前向きに行こう。