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庄司創の新作『サインハザード』への感想

漫画家の庄司創さんが新作マンガのネームの感想を募集しているというので、面白そうなので早速読んで感想を書いてみることにしました。

d.hatena.ne.jp

これまでの作品について

SFマンガが好きなので、庄司さんの作品は結構買っています。三文未来の家庭訪問には才能を感じた(個人的には市川春子九井諒子に並ぶSF短編集だと思っている)し、その後に出た長編の勇者ヴォグ・ランバも非常にハイコンテクストで、読んでいる自分が作品からどんどん追い越されていくような”ついていけなさ”がとても気に入っています。

だけどその後に出た白馬のお嫁さんはいまいち咀嚼しきれていないというか、豊富なSFネタを組み込みきれていなくて、とっちらけになっている印象があって、連載は読んでいたんですが単行本は買いませんでした。登場人物たちの本心が相当後にならないと明かされないので、ストーリーの大半が上っ面だけを滑っていくような印象があって、つまり、なぜ彼らがそのような行動を取るのかの行動原理がわからない。短編ならばそれが「なるほどそうだったのか」と明かされることが一種謎解きになっているから問題ないのだけど、長編でやられると、小出しにしていかないとついていけない。

自分がSFが好きな理由は、その発想のとんでもなさについていけなくて、それでもグイグイと引っ張っていかれるところなんですよね。馬車に乗り込んで、急に馬が走り出した時に慣性で体が置いていかれそうになる感覚、それでも振り落とされないように必死で食らいついていくような思いをしながら読むSFが好きで、だからテクノロジーや発想が常識では考えられないところにあってもいい(むしろそれでいい)んだけど、そこに登場する人間というのは僕らと同じ人間なわけで。馬車で言うなら『車』の方ですよね。乗客である自分と一緒にガタガタと揺られながら馬に引っ張られる。読者を乗せてなんとかついていく。そういう役割があると思うんです。

サインハザードの感想

一通り読んだ感想ですが、自分好みのハードSFで非常に面白かったです。登場人物もテクノロジーも魅力的で、今後はどういった構想なのか、誰がどんな目的でこの事件を仕掛たのか、そして何の意味があるのか、そういった先の展開に思いを馳せてしまうストーリーになっており、続きがとても楽しみです。間違いなくこれは『買い』だな、と一話目を読んで思いました。

気になった点について

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このシーンですが、多分「手前の人が何らかの衝撃で鼻を塞いだ手をどけてしまった。後ろの人がそれを助けるために鼻を塞いだが間に合わず爆発した」というシーンなのですが、前のシーンとのつながりが不十分で分かりにくかったです。最初は「爆発すると傷口から伝染性のある何かが噴き出るので、それを抑えているのか?」などと考えました。

そもそも鼻以外でも、耳の穴でもいいような気もします(そうすると防御不能になる?)。センサー的には鼻のほうが見つけやすいけれど、そういった次元でもないしなあ。鼻を塞がれたら神経毒、というのも疑問で、そこは爆発ドローンで押してほしかったです。ドローンは宅配物に紛れ込んで全世界にばらまかれているわけで、一見無害なものであるところがミソなのに、と思ってしまいました。

そしてドローンの安全性はどうなっているのか。例えばUDは「マイクロマシンが口などに入ることはありません」とさらっと説明されているけど、それはソフトウェア的にセーフなだけでハードウェア的には全然アウトですよね。セイフティが解除されたUDが一台あれば都市のひとつぐらい簡単に殲滅できてしまう。通気口から入り込んで音もなく住民の体内に入り込んで殺戮していくことが可能な世の中で、どうやって人は身を守っているのか。AIのストッパーとして存在しているのがAIチェッカーという人たちなのかな、とは思ったけれど、それでは普通に防ぎようがないと思ってしまいました。

AIチェッカーの凄さがいまいち説明しきれていないのもモヤモヤの原因かもしれません。「さすが本職の『AIチェッカー』」と言われても、何がどう凄いから使いこなせているのかが分からない。そして「助かる仮説」を考えた時に出てきた答えが「デカイAIを頼る」では、やはり人間の存在意義が感じられません。

カタストロフが、脆弱なものがただ壊されていくものだと面白くないんですよね。作中の世界で想定されなかったことが読者の想定内だと少しがっかりしてしまう。そういう意味でも登場人物は読者を乗せて、読者と一緒に馬に引っ張られる馬車だと思っています。


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ここもまだちょっと意味不明で、この集団は小学5年生で、クラス替えがあったばかりというのは分かったんですが、なぜ彼が「新入り」なのかが分かりませんでした。他のクラスから入ってきた子に「新入り」というかどうか。彼らが非常に特殊な才能を持つ集団で、そこに外の集団から新しく入ってきたから「新入り」の可能性もあるけれど、そういった描写が全く無いのでちょっと良くわからなかったです。


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この女性を登場させた意図が分かりませんでした。このあと二度と出てこないのなら、ここからジェリを出せば良かった気がします。


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ここからのティベルの意図が分かりませんでした。なぜ人類を見捨てておいて、なぜバスを救おうと思ったのか。もっと他にやるべきことがあるんじゃないの……?


読んでいて疑問に思ったところは細かく見ていくとこんな感じですが、果てしてこれは「作者が意図した引っかかり」なのか「自分の理解力が足りないだけなのか」の判断ができなくて困ります(^_^;) 連載で読んでいればどれも気にならないレベルですし、読み進めて「なんだそんなことか」と思ったかもしれない、そんな些細なところばかりですね。基本的にはこのままでも続きを読みたいし、期待する展開と言われても「このまま結末までバシッと描ききってください」としか言えないような……。力不足ですいません。

好きなマンガ

最近買ったマンガの中で特に気に入っているのは次の3冊です(その他にアフタヌーンとイブニングを毎号購読)。

ディザインズ(1) (アフタヌーンKC)

ディザインズ(1) (アフタヌーンKC)

ディザインズはいま一番最高なSFマンガですよね。ハードでクールで発想が飛び越えていて大好きです。アフタを買うのはディザインズ目当てといってもいいぐらい。っていうか庄司さんの新作、アフタヌーンに乗せないのか……。

施川ユウキといえばド嬢ですが(持ってます)、それとはちょっと毛色の変わった世界観のヨルとネルも面白かったです。研究所から小人が二人、人の目を避けつつも人の間を生きる、人として生きるストーリーは、どこか庄司創の作品にも通ずるところがあると思っています。

最後は全然SF関係なく、単に好きな作品。女の子はかわいくて賢くて強くて(腕力的な意味ではなく)、男の子はそれに振り回されっぱなしで、というストーリーは王道だし正義なんだなあ、と強く思っています。

あとはSF短編集、九井諒子ならダン飯よりもひきだしにテラリウム市川春子なら宝石の国より25時のバカンスの方が好きなタイプです。

フォトライフでも読めた

なぞのアプリを入れなくても読めたとは。

大きい画面で読みなおそう。