下北半島一周の旅 ~美しい自然と、それを脅かす存在と~

恐山の朝は早い。朝食前にお勤めがあるので6時起床、6時30分に本堂に集まることになっている。

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自分はと言えば5時前に起きて、明け方にこっそりと宿坊を抜け出した。お目当ては女湯。と言っても覗き見をするわけではなく(そもそも入っている人がいない)、外のお風呂は表の看板を裏返せば女湯と男湯を入れ替えることができるようになっているので、誰もいない隙を見計らって入浴してしまおうという魂胆である。

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掃除したばかりでまだ奥の湯船しかお湯が溜まっていないところの一番風呂を十分に堪能した。いやほんと、温泉好きにはたまらないところだね。

朝のお勤め

すっかり身を清めて浴衣を脱いで服に着替え、朝のお勤めに向かった。座禅をしたりうっかり眠ったりしたら棒でぶたれたりするものかと思っていたら特段そんなこともなく、お坊さんのお話を聞いてお経を読んでいるのを聞いて、先祖のことを思い出しながらご焼香をして、という具合。しかもそれだけでなく、宿泊者の名前を一人ひとり読み上げて祈祷をしていただけるのが嬉しい。だって普通にお願いしたら3,000円だよ。

民宿の女将さんは我々が恐山に泊まると聞いて「12,000円だなんて、あんなのボッタクリだよ」と言っていたけど、そこにご祈祷料が含まれているんなら割りとお得じゃないかな。個人的には硫黄の天然温泉に3,000円払いたいレベルである。

朝食

朝食も大変ヘルシー。タンパク質は豆腐で補えばなんとかなる!

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食事に使った塗り箸は持って帰って使うように言われる。これも普通に買おうとしたら1,000円ぐらいとられるんじゃないかな。色々とコスパが良いぞ。

というわけでずっとここで暮らしていけば鬼のように、いや違うな、仏のように健康になりそうなものだけどそう簡単にはいかなくて、意外なところに落とし穴があった。それは硫黄の匂いで、風呂に入っているときならまだしも、寝ているときも風向きによっては部屋中が硫黄臭に覆われてしまう。朝5時に目覚めたのも匂いで十分に寝られなかったという要素が大きかったり。まあ、何ヶ月もいたら気にならなくなるんだろうけどね。

着ていった服や使ったタオルに染み付いた硫黄の匂いは、硫黄が酸性だからアルカリ性重曹を入れて洗ってみたらすっかり無くなったので良かった。

釜臥山展望台

チェックアウトして外界へ戻る前に、恐山で一番高い釜臥山の展望台に寄ってきた。恐山は地蔵菩薩がご本尊で、そのほかに奥の院には不動明王がいて、さらにこの釜臥山にある釜臥山嶽大明神とが一直線に並んで、神と仏と地蔵とが三位一体をなしている。

ところが今や大明神の祠には、物騒な代物が鎮座している。それがこれ、ガメラレーダーだ。

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J/FPS-5 - Wikipedia

神のご加護ではミサイルを防げないから仕方ない。

釜臥山展望台は空軍の基地内にあって、平時は好意で市民に開放されているのだけど、その警備の度合たるやこれまでに入ったことがある基地類のどこよりも厳戒だった。海上自衛隊は結構ゆるふわに基地内に入れてくれるし、陸上自衛隊はもう少し厳重で小銃を担いだ兵士が歩哨をしているけれど、やはりどことなく呑気な空気が流れている。それはやっぱり武器や兵器に至るまでの部分でもう一段階厳重になっているからなのだろう。ところがここでは、この国を守る礎が丸裸のむき出しになっている。どんな不埒な悪人どもが忍び込んでもおかしくないんじゃないか、そんなことを考えながら展望台に至る道を登ってきたんだけどもちろんそんなことは杞憂も杞憂だった。敷地の入口脇にはトーチカがあって(そんなものプラモでしか見たことがない)、展望台から先は徒歩でガメラレーダーのすぐ近くまで登れるのだけど、登山道の手前に停まっているトラックの荷台には、兵士の一団が潜んでいてもおかしくない。

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ここからむつ市を見下ろすと、陸奥湾と太平洋に挟まれていた地形がよく分かる。夜景もいいかもしれないなあ。でも函館ほどじゃあないだろうけどね(変な対抗意識)。

大間へ

むつ市から、下風呂温泉郷がある風間浦村を通って大間町へ戻った。途中で面白そうなスポットもいくつかあったのだけど、フェリーの時間があるのですっ飛ばしてきてしまった。そうは言ってもまだ10時半では早すぎる。こんなことなら日帰り温泉でも寄ってくるのだった。

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仕方がないので本州最北端の大間崎に寄って、さて名物のマグロでも食べようと思ったらちょうどよくこのあたりに食堂が集まっていた。そうなれば一番いいところで食べたいと思って検索したところ、海峡荘という民宿が良さそうだった。

海峡荘

海峡荘

食べログ海峡荘

名物は「マグロだけ丼 2,800円」なんだけど、マグロだけなら飽きちゃうなあと思いながらメニューを見ていたら「海峡定食 2,700円」というのを発見。

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赤身と中トロのほかに生ウニが丸二個もついて完璧なバランスだ。若い頃なら丼もいいけれど、年をとるとこういう方が性に合う。

美味い美味いと笑いながら食べているとお客さんが次から次へと入ってきて、そのうちの一組は恐山の宿坊で一緒だった女性の二人組だった。姉妹だろうか、若い女性が恐山みたいなところに泊まるなんて随分と渋いなと思っていたら、そこから遠く離れた大間町で偶然に同じ食堂に入るとは。

大間原発

出港までまだ時間があるので先にチェックインを済ませて、そうそう、大間町と言えば大間原子力発電所だ。これが完成してしまったら大間のマグロも何もかも、こちらの街に渡ってくることさえもできなくなるかもしれないと思って今回、大間町にやってきたんだった。

大間原発の工事現場はガメラレーダーなみの厳戒態勢で守られていて、観光客がふらっと行って見学させてくれるような雰囲気ではまるで無い。そこで、近くにある奥戸漁港から眺めてみることにした。

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ここはMOX燃料、使用済み核燃料を混ぜた燃料を使うことができる原子力発電所として核燃料リサイクルの根幹を担う施設なので一概に反対したいわけではないんだけど、それにしても函館が近すぎるよなあ。何か事故があったなら津軽海峡を挟んだ地域の農業水産業が壊滅的な打撃を受けてしまうだろうし、それだけのリスクに見合ったリターンが得られるのか、と考えたら難しい。日本の人口は今後どんどん減っていくというのに、これ以上電力が必要になるのか、というのも分からない。

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日本の人口を考えた時に、たったこれっぽちの人間が被害にあっても大勢には影響がない、ということなのかな。シン・ゴジラを見ていて思ったけど、ゴジラが上陸したのが東京じゃなくて北海道だったら、

「核を使おう」

「やむを得ぬ」

で終わると思った。 じゃあ東京湾原発を作れとか、そーゆー非建設的な議論をしたいわけじゃない。ただ東京の人がなんにもない僻地だと思っている北の外れにもこうやって人間の生活があって、田舎だから賠償金が安くて済んだとか、そーゆー「注文の多い料理店」みたいなことを言って欲しくないんだよね。

そんなことを考えているうちにフェリーの時間になった。

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カモメならこんな距離ひとっ飛びなのだろうか、ほとんど羽ばたきもせず風に乗って船にピッタリとついてきて、モビールのように宙に浮いて見える。鳥は楽でいいなと思ったけれど、フェリーを使えばこうやって海を渡ってしまえるというのもなかなか悪くない。車で普通に行けるところにはだいたい行ってしまったから、離島を攻めてみるというのも悪くないかもしれないなあ。奥尻か礼文か……。どちらもウニが名物だな。となると来年の初夏辺り、か。予定表に書いておかなくっちゃ。