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下北半島一周の旅 ~佐井村の民宿に泊まる~

函館に住んでいると津軽海峡を挟んで対岸の下北半島大間町を見る機会が多い。高いところに登って海の方に目をやれば、晴れた日には建物の色がわかるぐらいにはっきりと街の様子が見えてしまう。だけどそのぐらいに近くても、心理的距離感はものすごく、遠い。

ついこの前、東京までの旅費の金額ごとに道府県を並び替えた地図が話題になっていたけれど(さすがに北海道から東京まであんなには安くないけれど)、函館から羽田までの飛行機は、早めに予約すれば片道で18,000円ぐらい。そしてすぐ目の前に見える青森県大間まではフェリーで片道16,000円ぐらい。なんと、料金的にほぼ変わらないのだ*1

だから住民感覚的には函館の隣町は東京であり札幌だったりして、わざわざ青森まで行く機会なんて(JRで乗り継ぎのために通過するのを除けば)ほとんど無かったりもする。なかんずく青森に渡ったとしても、ほとんどが青森市やら弘前などの都会を目指すわけで、わざわざ下北半島の端っこのほとんど人も住んでいないような大間町を目指そうなんて奇特な人間は。そう多くない。

周りの知り合いに聞いたけれども大間の方に行ったことがある人は皆無で、逆に大間町の人が函館に来ているんじゃないかという話を聞いた。大間町よりも函館市のほうが病院も買い物をするところもたくさんあるし、同じ青森県内の市であるむつ市まで、車で山を超えていくよりはフェリーのほうがずっと楽だから、というわけだ。

そんな感じでこれまで自分の中で「近いようで遠い街No.1」の座をほしいままにしてきた大間町だけど、今年にわかに湧き上がってきた海鮮欲に気持ちを支配され(
北斗市で焼き牡蠣とウニ丼を堪能してきた - 鵜の目鷹の目)、日本で最高とも言われる大間のまぐろを食べたいと思ってしまった。しかもマグロの旬は9月からで、シルバーウィークともタイミングが合う。8月に取りそびれた夏休みをここで使って、マグロを食べるついでに下北半島も一周しちゃおうというのが今回の旅の趣旨である。

フェリーの予約は早めが得

そうと決まれば善は急げ。すぐにフェリーの予約をした。

実際に予約してみるまで気が付かなかったけれど、津軽海峡フェリーでは海割ファミリーという割引を行っていて、一便について先着5台までは

  1. 「車1台(普通自動車または軽自動車)+ドライバー1名」の10%OFFの運賃で、
  2. ドライバー以外の同乗者最大7名が無料で乗船可能

というオトクな料金で乗ることができるのだった。

www.tsugarukaikyo.co.jp

このおかげで、フェリー代金は往復29,600円*2となった。乗客分が含まれないのでだいぶ安い。

大間へ

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函館を16時30分に出港したときにはまだ日が明るかったのが、大間に着いた18時には完全に日が暮れてしまっていた。あたりの様子がよく分からないので「大間にやってきた」という感動もほとんど感じないまま、とりあえずこの日の宿を目指した。

大間町にも宿が何件かあるのだけど、今回は考えがあってここからすぐに南にある、佐井村というところに泊まることにしていた。

民宿みやの

minshuku-miyano.com

佐井村は人口2,000人程度の小さな村なのだけど、港の回りには何件かの民宿がある。どこに泊まろうかとインターネットで検索してみたところ、その中でもこの『民宿みやの』の評判が群を抜いていた。きちんとしたHPがあるから見つかりやすくて、そしてHPで探すような人が泊まるのだからその評判をインターネット上に書き込むという正のスパイラルが働いているのだろう。宿泊料金は一泊6,000円と格安で、料理がとにかく良いというのでせっかくだから2,000円追加して大間マグロがつくコースにしてみた。

というわけでフェリーから降りてすぐに南下して佐井村を目指すことになったのだけど、予想以上に道が狭くて入り組んでいて高低差があってなかなかスリリングだった。渡島半島の辺りの海岸沿いの道はだいたい真っ平らなので、こんなに山の中に入ったり出たりするなんて思いもしなかった。このあたりは平地がほとんど無くて、山と海の隙間にへばりつくように人が住む集落がある。船で行き来していた時代はそれで良かったものを、無理やり道路で繋ぐことになったからこんな険しい道になったんだろう。ただでさえ知らない土地で緊張するのに、夜中に走るもんじゃない。

それでもどうにか30分ほどかけて佐井村に入り、ナビが示すとおりの場所で停めるとそこには民家しかない。不思議に思って地図を見直すと道路から少し奥まったところにポインタがあった。あたりを見回すと民家の脇から敷地の奥に向けて道が伸びており、そこに入るとなるほど民宿は旗状敷地の奥にあったのだ。事前にHPで外観を確認できていたのが良かった。

車を停めるとすぐに女将さんが出てきて2階にある部屋へと案内してくれる。トイレと洗面所は共同で、風呂は24時間いつでも入っていいという。部屋は普通。

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カレンダーがJ-POWERだったのはご愛嬌w

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まず風呂がいいか食事が良いかと聞かれ、料理が良いと聞いていたのでおなかを空かせてきた旨を説明すると、1階へと誘われる。食堂というか広間というか、田舎の祖父母の家の居間のような畳敷きの空間で、なんだか帰省したような気持ちになる。

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料理の品数は豊富でかなり食べごたえがある。刺し身にフライ、数の子に焼き魚と、田舎の正月みたいなラインナップでさらに帰省感が強まる。和食ばかりかと思いきやイカをトマトソースでイタリア風に煮付けていたりして油断がならない。おかずが多いからご飯を控えめにしようと思っても、そんな自制心が制御できなくなるぐらい米も美味しいので困った。旅先で太るのは仕方がないこととして今日のところは諦めよう。

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おかずの中ではもちろんマグロは美味いのだけど、こう言ったら語弊があるけど函館で食べるものと大差がない気がする。地元のスーパーでは普通に地元産のマグロが売られていて(中トロでグラム880円ぐらい)、地元産ってことは津軽海峡近辺なのだから同じマグロなわけだ。逆に言えばイカも函館と変わらないレベルで美味しい。内地でイカを食べると真っ白でぐにぐにしているだけの代物に出会って絶望することが多いのだけど、もちろん佐井村で穫れるイカはつるりと透明でイカしている。

大間まぐろ 天然 本マグロ赤身 3人前 300g

大間まぐろ 天然 本マグロ赤身 3人前 300g

しかしこれを内地で食べようと思うとこんな値段になるのだな。むむむ。

魚は期待値通りとして、目を見張ったのが舞茸と、”みず”という名の山菜の炒め物。正式名称はウワバミソウ*3と言って、北海道にも生えているようだけど自分が食べるのは初めてかもしれない。シャキッとした食感で細フキに似ているけれど噛むとぬめりがあって、これがなかなかのスマッシュヒットだった。

日本酒が結ぶ縁

飲み物は何があるかと女将さんに訪ねたところ、

「ビールと…」

と答えるので日本酒はありますかと問うたところ、しばしの逡巡ののち

「残っている日本酒があるのでこれで良ければご自由にお飲みください」

と、床の間の隅にあった豊盃の一升瓶を持ってきた。

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宴会の飲み残しであろうか、振れば一合ほど瓶底でちゃぷちゃぷと揺れている。これで十分と答えて飲み始めると、常温だし多少気が抜けた感はあるけれど、そうは言っても豊盃の純米吟醸、杯はどんどん進む。

そうこうしていると隣のテーブルに新しいお客さんがやってきた。我々よりも先に到着して、お風呂を済ませてから食事にしたらしい。これは豊盃をシェアするべきかと思っていたら早々にビールを注文し始めたので、これは余計なお世話かな、と。酒飲みが日本酒好きとは限らない。下手に声をかけて「日本酒が苦手でね」なんて始まっても、この豊盃を出したところではその理論を後押しする結果になる危険さえあるしなあ、などと考えながら飲み干してしまって、さらに自分も追加でビールを注文した。

キリンのラガーの昭和っぽい苦さを味わっていると(割りと好き)、隣の客は女将さんに持ち込みの酒を飲んでいいかと聞いている。旅の途中で買った地酒でも飲むのだろうかと興味津々で様子をうかがっていると、女将に快諾されて隣の客が部屋から持ってきたのはクーラーボックスだった!

思わず横目で二度見をすると、彼はそこから四合瓶を取り出して飲み始めた。

「お好きでしたらどうですか」

のお誘いに一も二もなくうなづいて一杯いただくと、こってり系ではないけれど味が濃くて飲みくちが爽やかな銘酒だった。

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宮城県の乾坤一という地酒だという。ほほう、仙台の人なのかな、と思っていると、次に彼が取り出したのはなんと黒龍の大吟醸だった。それは黒龍は日本で指折りの銘酒だけれど、なぜこれを持ってきているのかわからずに尋ねたところ、旅先で特に旅館などに泊まって思い通りの酒を飲めないことが多いため、業を煮やしてその土地の食べ物に合いそうな日本酒を持参するのが定番になっているとのことだった。

なんという日本酒通だろうとおそれいった。自分もこれまで旅行をするたびに、いくら料理にこだわっていても通り一遍の酒のラインナップしか無いことに臍を噛んでいた。とはいっても地酒は生ものだし、日本酒好きがそれほど多くない現状を考えたら置けと言っても無理がある場合が多いだろう。だから、だったら自分で持っていってしまえという発想にはなるほどコロンブスの卵だと感心してしまった。

それから先はかなり出来上がってしまって話の細部まではよく覚えていないけれど、酒の話から旅の話まで花が咲いて楽しく過ごすことができたのは幸運だった。

自分も相当な人見知りで、隣り合った人に声をかけたりだとかはできる方じゃないけれど、うーん、もうちょっと積極的になったほうが楽しくなるのかもしれないなあ。

*1:もちろん人間だけで行けばもっと安いけど、それだとフェリーを降りてからどこへも行けない。

*2:普通自動車での価格

*3:蛇含草のことではなかった