読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

NO MAN'S SKY 4

「どまにし号」の修理は順調に進んだ。道中に集めてきた鉄や炭素の元素を組み合わせて船体と同じ素材を作り上げて弾痕を塞ぎ、ヘリジウムで部品を作成してエンジンを元どおりにし、プルトニウムを加工してジェット燃料を補給。と言ってもほとんどの作業は宇宙船の原子転換炉がやってくれる。オレのやることといえばコンピュータの指示通りに材料を集め、ブロック遊びのように部品を組み合わせていくだけだ。

f:id:Red-Comet:20160901223606j:plain

そうなると、果たして人間である自分が宇宙船に乗っている意味とはなんなのかと、自問自答してみたことがある。こうやって他の星を歩くにも人間は酸素がなければ生きられないし、暑い星寒い星では活動できる時間も少なくなる。疲れれば休まなければならないし、夜は寝なければならない。ロボットが代わりにできたらだったらどれだけ効率がいいものか。

だが結局のところ、機械の代わりに人間が働かなければならない理由は単純にその方が安いからというだけのことに過ぎず、人間だから特別なところがあるわけじゃないと分かった。メンテナンスフリーな量子コンピュータ搭載型ロボットを一台買うだけの金があったら、中古の宇宙船を一隻とオレのような、わずかなクレジットと引き換えに自分の命を賭けのテーブルに載せられるような人間をゆうに二、三年は雇えるだろう。

この「どまにし号」も命と引き換えに手に入れたようなものだ。まだオレが他の山師の下でこき使われるだけのただの鉱夫だった頃、希少金属を見つけては気密が破れることも恐れずに宇宙服の内部に隠して持ち帰り、そんな生活を5年続けて貯めこんだ金は違法カジノの入場料に消えた。世の中には自分の命をルーレットの赤か黒にかけるような最低の連中が、賭けに敗れて見るも無残な死に方になる様子をツマミに酒を呑むようなさらに最低の連中――金だけはたんまりと持っていやがる――がいて、オレの前に並んだ参加者たちは次から次へと見世物にされていった。生きたまま酸につけられて腰から下が溶けた状態で「今のお気持ちはどうですか」というインタビュアーからの質問に答えさせられたり、超振動ナイフで出血のないままに全身の骨という骨を抜かれてクラゲのような体にされたり、どちらの犠牲者も脳をバイパスされているからどれだけのショックがあっても、たとえ舌を噛もうと自分の意志で死ぬこともできず、ご覧になっているお客様の興味がなくなったしかるべきタイミングでスイッチがオフにされて静かに息を引き取り、残った死体は最新式のディスポーザーによって原子レベルまできれいに分解されることになる。オレたちが支払う入場料はその掃除代に使われると聞いた。

生き残ったオレは手にした金でこの「どまにし号」を手に入れた。中古船屋のおやじは前世紀の大戦前に作られた逸品だというけれど、さらにその100年前に作られたポンコツである可能性もぬぐえない。だが今のところ自分の半生をこいつのコックピットで過ごしてきた。きっとこいつはオレが死んだ後も誰かを乗せて、銀河を駆けまわるのだろう。



修理を終えていつでも飛び立てるようになったわけだが、じゃあこの星を離れて自分が来た星に戻れるのかといえばそう簡単な話じゃない。肝心のワープ燃料が確保できなかったからだ。通常のエンジンで加速したのでは、隣の星系に移るまでに老衰で死ぬ。ワープ燃料を合成するためには反物質が必要で、そんなものが普通の惑星の表面に転がっているわけもなく、手に入れるためには他の宇宙船から譲ってもらうかする必要がある。本当はあまり気が進まないが、この星から出るためにはビーコンの反応に答えたあの場所に行ってみるしかなさそうだ。

離陸ボタンを押すと修理したてのエンジンはときどき唸りながらも宇宙船を宙に浮かせた。ある程度高度を稼げばあとは反重力モーターが、この星に引き寄せられる力を推力に変えてくれるので推進剤の心配はいらない。エンジンは停止し、風切音だけがコックピット内に響いた。やがて宇宙船のスキャナがビーコンが指し示した位置に存在する建造物を発見し、オレはマルチツールにエネルギーを補充し、資源採取モードから武器モードへの切り替えスイッチの位置を確かめた。

いくつかの山を越えたところに目的地はあった。円筒形を組み合わせた簡易的な基地だ。違う銀河だろうと物理法則は変わらない。効率を考えると必然的に似たような形に作られるのだろう。船のスピードを落とし、バンクをつけて建造物の周囲をぐるりと飛びながら肉眼で観察してみる。宇宙船の姿は見えないが、基地の出入り口のすぐそばにはロケットエンジンが地面を焦がした跡がくっきりと残っている。間違いない。ここは先ほどのビーコンのように打ち捨てられたものではなく、今も「生きている」基地だ。

f:id:Red-Comet:20160831220320j:plain

着陸痕のすぐ横に「どまにし号」を着陸させ、降機したオレは基地の出入り口の前まで歩みを進めた。敵意を感じさせないようマルチツールは腰に下げたまま、しかしいつでも抜けるように右手の位置に注意をはらっている。

扉の高さは2メートルほどで、人間用のものとはさほど変わらない。周囲を見回したが呼び鈴のような気の利いたものはなく、代わりに横にあったスイッチを押した。

建物の内部からシューっという空気が出入りする音がして、それが止むと扉が静かに開いた。中に入るとさらに奥には扉があって、その横にあるスイッチを押すと入ってきた扉が自動的に閉じ、密閉された部屋から外気が吸いだされ、真空になった後で違う種類の気体が満たされた。外の大気は塩素ガス混じりの毒性が強いものだったが、バイザーの表示を見ると新しく流入された気体は硫化水素を含んでおり、やはり人間の呼吸には適さないものであった。

f:id:Red-Comet:20160831221708j:plain

いよいよ奥の扉が開いて、姿を現したのは背が低くずんぐりむっくりとした体型をした異星人だった。彼はオレを見ても特に驚いたそぶりは見せず、こちらに視線を向けて口を開いてゲックゲックと鳴き声をあげた。マイクは宇宙船のコンピュータにも接続されており自動的に異星人の言語を翻訳する設定になっているのだが解析不能というばかりで、仕方なくオレは部屋の入口の近くで理解できないという顔をしたまま突っ立っていると、異星人は手にしたパッドになにやら文字らしきものを表示させて、これを見ろというような素振りをする。

f:id:Red-Comet:20160831221957j:plain

そばまで近寄ってパッドの画面を覗き込むと、様々な物品や鉱物が表示され、その横に表示される文字は品物が変わるたびに変化する。品物は見れば分かる。プラチナ、金、プルトニウム、見慣れた元素を見るうちに、横に表示されているのは数字だということに気づいた。コンピュータにそれを解析させるとすぐさま異星人流の20進法(彼らは数を数えるときに両手両足の指を使うのだろうか)をアラビア数字に見えるようにバイザーがアップグレードされた。

彼はきっと商人で、だからオレのようなヨソ者の異星人を見ても動じるところがないのだろう。最初に会ったのが場慣れしているタイプで良かった。しかしこちらには取引に応じられるような気の効いた物品など持ち合わせていないし、そもそも銀河系の通貨が使えるかどうかも分からない。とりあえずマルチツールからUSBケーブルを引き出して先端を異星人に差し出した。彼はそれをパッドに差し込むと、表示された文字を見てゲックゲックと悲しそうな鳴き声をあげ、そしてパッドを操作するとUSBケーブルを外して返してよこした。バイザーには彼から数パケット分のデータが送られたことが表示されている。コンピュータの解析によるとどうやらこのデータが彼らの通貨らしい。商売を持ちかけた相手が無一文であることが気の毒になったのか、施しをされたものと思われる。

f:id:Red-Comet:20160831223128j:plain

奴はすでにオレに対しての興味を失ったらしく、椅子にどっかりと腰掛けて、床に届かない足をぶらぶらさせながらディスプレイに向き直り、そこに映し出される品物や価格をチェックする作業に没頭しはじめた。とても話を聞いてくれるような雰囲気ではないし、そもそも一切言葉が通じないのだからどうしようもない。なにかこいつらに興味をもってもらえるものを持ってくるかして、取引相手として認識されるようにならなければ交渉もなにも無理そうに思えた。

諦めて基地の外に出たオレは、あたりをぶらついて何か面白いものがないか見て回ることにした。居住区となっている円筒形のユニットは赤い砂埃がこびりついて汚れ、昨日今日ここに着陸したものではないことが分かるが、その外壁は予想通り抗酸化コーティングされているため、どのぐらい古いものなのかは分からない。表面に印字された文字は先ほど異星人(ゲックと呼ぶことにしよう)が見せてくれたパッドに表示された文字とは形がだいぶ異なる気がした。コンピュータに数字を分析させたのでゲックたちが使う数字はバイザーの自動翻訳機能で我々が使う数字に置き換えられて表示されるはずなのだが、それも全くの無反応であるため、もともとこれはゲックが作ったものではないのかもしれないと考えた。商売に長けた種族なのだし、他の異星人から買い取ったのかもしれない。

出入り口の反対側に回ると、昨日見つけたビーコンと同じものがあるのを見つけた。今度のは基地から電源を供給されているらしく、稼働していることを示すインジケータが赤く光っている。オレはマルチツールからUSBケーブルを引き出して接続し、こいつを動かしてみることにした。運が良ければ他の基地が見つかるかもしれない。果たしてビーコンに反応があった。ここから北に400kmほど進んだところになにかあるらしい。次の目的地はそこだ。



急ぐ旅ではない。目的地に向かって「どまにし号」を飛ばしながら、上空からスキャナを作動させて重金属の反応があれば着陸し、希少元素を回収しながら行くことにした。この星に転がっている元素がゲックたちにとってどのぐらいの価値になるかは分からないが、話の糸口くらいになってくれたらいい。

途中で大きめの金属反応を見つけたが、宇宙船では着陸できない森の中だったため、近くに着陸して森へと分け入った。足元の植物をバキバキと踏み折ると、硬い表皮に守られていた果肉が露わになり、こぼれた樹液が地面に溢れると化学反応を起こしてぶくぶくと泡を吹き出した。

f:id:Red-Comet:20160831223456j:plain

道中でこの星の原生動物と思われる生き物を何体も見つけた。スコップのような下顎を使い、地面ごと根こそぎ植物をすくい取って嚙み砕き、口の隙間から赤い泡を吐き出している。酸性度の高い土を胃液の代わりに使っているのかもしれない。

酸で満たされた大気の中でよくもまあここまで進化したものだ。そう言えばゲックがいた基地の中は空気が調整されていた。彼らはやはり、この星の土着の生物ではないのだろう。ではなぜこの星に住み着いている? 資源調査か交易のためか。

森のなかをしばらく進むと、巨大な木が幹の途中から真っ二つに折れているのに出くわした。折れ目を見上げると、生々しい傷跡からまるで血飛沫のように赤い泡を吹き出している。比較的最近折れたものらしい。

その後も金属反応が近づくにつれて、折れて真っ赤に染まった木や、真っ黒に焼け焦げた跡を見るようになり、オレの心臓は猛るように脈打った。ジェットパックに点火して木々の隙間を縫うように上空に飛び立てば、果たして森の向こうには予想通り、宇宙船の輝けるボディが見えた。

広告を非表示にする