電王戦タッグマッチに感じた『違和感』
9月20日に放送された電王戦タッグマッチを見ました。
始まる前から賛否両論のイベントでしたが、斜陽な将棋界が何とかしようと頑張っているんだから、盛り下げるようなことは言わないようにしよう、いろいろ思うところはあってもスルーしようと思っていたのですが、終わってみるとやはりというかなんというか、とても残念な番組に仕上げられていました。
日曜日は番組を見ながら色々とTwitterでぼやいたのですが、140字では誤解なく自分が思っていることを表現できないと思ったので、きちんとブログにまとめてみようと思います。
姿を消したコンピュータ
去年とおととしの電王戦が面白かったのは、人間vsコンピュータという戦いが、人間vsプログラマという人間同士の戦いという構図で上書きされていたところなんじゃないかと思っています。
人間が機械と戦うなんて、面白いわけがないんですよ。電卓と暗算勝負しても意味が無い。ところが、物言わぬ機械の代弁者としてプログラマに焦点を当てることで、無味乾燥な戦いをウェットに、ドラマチックな展開にすることができた。そう感じていました。
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コソコソ隠れて行う罪悪感
コンピュータが読んだ手は、棋士が装着したメガネ型ウェアラブル端末にだけ投影され、棋士が自分でその手を選んだのか、コンピュータが推奨した手を選んだのか、たまたま一致したのか、我々視聴者には全くわからない状態で始まりました。
そこをブラックボックスにされると、コソコソとカンニングをしているのと変わらないように感じてしまいます。
https://twitter.com/mandelin2011/status/513321265843539969
なぜそこを正々堂々とやらなかったのかといえば、「プロがカンニングしているように思われたくない」ということなんでしょうが、コソコソとすることで逆に、後ろめたいことをやっているように思われてしまったんじゃないかと思いました。
やねうら王の読み筋を言われて驚く加藤九段。やっぱりこの人企画の意図を理解してないなw
— pikaring (@pikaring) 2014年9月20日
かと言って加藤一二三九段のように、全くコンピュータと協力しようとしないのもおかしな話で、ミスマッチな人選だったとしか言いようがありません。
棋士がいる意味って?
じゃあコンピュータを全面的に頼ればいいのかというと、首を傾げざるを得ません。
自分が唖然としたのは決勝戦の中村-森下戦の119手目。中村六段の習甦は評価値-9999を示しました。自分の玉が詰んでいる、という数値です。
対する森下九段のツツカナは評価値0を示しました。これは互角という評価でもあるし、Twitterの情報によると、ツツカナは勝った時に0を出すらしいんですが、森下九段は「ツツカナがバグった」と判断しました。ところが、自分が手元のbonanzaで当該局面を読ませてみたところ、すぐに17手詰めだと判断したのです。
やしもん「ここで角打って詰みでは」
— pikaring (@pikaring) 2014年9月20日
さすが本物は違う…。
30秒将棋とはいえ、プロが17手詰めを逃すなんて…、というのが率直な感想です。特に森下九段は「終盤はほとんどツツカナの言うとおりに指していた」と言っていたので、自分の頭で考えないで機械に頼りっきりだとこうなってしまうのかな、と。
というか、素人がponanza片手に参戦したとしたら、いいところまで進めんるんじゃね? と考えちゃうのが普通じゃないかな。
コンピュータがいる意味って?
じゃあ素人がコンピュータを小脇に抱えてトーナメント戦をやったとしたら、誰がそれを見るかと。視聴者が見たいのはもちろん、プロ棋士が喜怒哀楽するところです。
→以前、将棋の一番の魅力は人だと書いたけど、それは確信に変わった。将棋の一番の魅力は人である。
— Dice-K (@DiceK50158266) 2014年9月20日
だからコンピューターに将棋界が潰されることは絶対にない。魅力に溢れるプロ棋士達に取って代わることは何者にもできないのだから。
タッグマッチ自体はグダグダでしたが、解説の二人がめちゃくちゃ面白かったのが救いです。
ニコ生で藤井×三浦の漫才を放送するための、口実としてのタッグマッチなんじゃないかと思えてきた。
— pikaring (@pikaring) 2014年9月20日
電王戦という冠がなければニコ生で放送ができないけれど、プロ棋士がいないと人を呼べない。コンピュータとプロ棋士をガチで戦わせるとファンが逃げる。そんなジレンマの末にできあがっちゃったのが、今回の電王戦タッグマッチなんだろうな、と感じました。
結局面白いのも人間、人気があるのも人間、頼りになるのも人間では、タッグマッチの意味がないんだよなあ。なんというかまあ、アレだ。
— pikaring (@pikaring) 2014年9月20日
妥協の産物としてのタッグマッチ
こうして、刺を抜かれて消毒され、妥協と打算と取り繕いでできあがった電王戦は、見る人全てに微妙な感想を持たせるなんだかやるせないものになってしまいました。
電王戦タッグマッチは、イベントとして見ると棋士が沢山出て凄く面白かった。ただこれが、名人戦や竜王戦並みのビックタイトルになると思うと胃が痛い。ずっとこんな風に面白おかしくやればいいんじゃないかな。
— pikaring (@pikaring) 2014年9月20日
棋士がたくさん出ているからまあ見れるとはいえ、企画としてつまらなさすぎる。
この原因はそもそも自分が違和感をおぼえていた「電王戦なのにコンピュータを隠そうとしている」ところにあるのだと思います。
なぜ運営はコンピュータの存在を隠そうとしたのか、その理由はいろいろ考えられますが、まあそれはそれとして、キレイ事だけじゃなくて、清濁併せ呑むぐらいの気合がないと、面白いイベントは作れないんじゃないかな~、と感じました。
電王戦タッグマッチ改善案
まあ、文句をいうだけだなら誰でもできるので、自分でも改善案を考えてみました。
コンピュータにオペレータを付ける
これが一番の特効薬かな、と。
プログラマの人たちは定職もあって忙しいと思うので、女流棋士でもいいんですが、個人的には秒読みちゃんを「ソフトの擬人化」として登場させるのが面白いんじゃないかと思います。
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3ステージ制の導入
序盤は人間が有利、中盤は互角、終盤だとコンピュータが強いので、そこを活かすために3ステージ制を提案します。
棋士はソフトちゃんとペアになって個室にいて、大盤とだけ会話ができるようにします。トータルの持ち時間は1時間、それを3つに分けてみます。
序盤は持ち時間10分を使いきるまで、棋士が自由に指します。
持ち時間を使いきったら中盤に入り、1手1分以内に指し手を「ソフトちゃん」に伝えます。ソフトちゃんは推奨手を棋士に教えたり、棋士の指定した手の点数を伝えたりして、それを元に棋士が合計5分以内に最終的な判断を下します。
残り時間10分を切ったら終盤となり、あとはソフトが指します(10分切れ負け)。
こんな形式だと1対局あたり必ず2時間で終わるし、棋士とコンピュータの良さが生きるし、負けてもコンピュータのせいにできるのがいいんじゃないかな(^_^;)
あくまでイベントとして
もはや電王戦タッグマッチは面白いイベントとしてしまって、棋戦としての体裁を整える必要は無いんじゃないかなと思います。記録係も読み上げもいらないんじゃない?とか、そーゆーところから変えていくのが大事なんじゃないかな~。
電王戦タッグマッチは次回もぼんやり楽しみに観よう。あと、こういうの好きくない将棋ファンというか、なんていうか、棋士の誇りとかを大事にする系の将棋ファンに対して、「そんなあなたのために実は生身の棋戦たくさんあるよ」って教えてあげたり、さらにお金落としてもらう仕掛けとかが整備されると
— 640406 (@retuner640) 2014年9月20日
棋士がタブレット触りながら考えてる姿は全然かっこよくなかった。だからと言って、優劣不明の状態が続くことや、起こりにくいはずの逆転が起こるドラマなどには、ドキドキせずにはいられなかった。イベントとしてまた観戦に行きたい。棋戦としてはまだ楽しみには思えない。
— 涓滴 (@kenteki) 2014年9月20日
電王戦タッグマッチ、決勝からリアルタイム視聴できて良かった(´ω`)
— 招福 (@biblio839) 2014年9月20日
なにあの群馬兄弟の将棋漫才ww弟弟子にキレる寸前まで詰めろをかける兄弟子www
高橋&屋敷両九段の解説は朗らか。
どんちゃん騒ぎのイベントとしてはアリだと思うけど、正直棋戦としてはどうなのかな(´・ω・`)。
自分のTLでもやっぱり、参加した棋士が面白かったけど、棋戦としてはどうかという意見が多かったように思います。
電王戦を名人戦や竜王戦に匹敵するような棋戦にしよう!みたいな意気込みはいらないので、いろんな棋士が登場して、冗談を言ったり、真面目な顔を見せたり、そのライバルとしてコンピュータがいたり。そんなごちゃごちゃとした楽しいイベントにすることを目指した方が、今後の将棋界のためになるんじゃないでしょうか。
明日の電王戦は運悪く今泉アマのプロ編入試験と被っているのでそれほど熱心には見ないかもしれませんが、適当に楽しみに見ようと思っています(^_^;)