ミュシャ展に行ってきました

札幌道立近代美術館で開催されているミュシャ展に行ってきました。
http://www.stv.ne.jp/event/mucha/index.html
ミュシャって誰?という人もいると思うんですが、目にしたことがある人は多いと思います。山田章博っぽい絵を描くあの人です(逆かw)
地元にある喫茶店にこの人の絵の大きなタペストリーが飾ってあるのを見たことがあるぐらいで、果たして面白いものかと半信半疑で行ってみたのですが、実物と複製品では迫力が違っていて、さらに広告画だけでない魅力を知ることができて予想以上に楽しめました。
 
やはり圧倒的だったのは、デビュー作とも言える「ジスモンダ」でした。人気絶頂の舞台女優、女神サラを、当時画期的な手法で描いたそのポスターを見ると、初めてこの絵を見た人たちの驚きが想像できます。
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何作か見ているうちに、なぜ彼がこのような手法を生み出すことができたのかわかったような気がしました。見ている間、ずっと「何かに似ている」と思っていたのですが、それはイタリアのローマで見た、ベルニーニの彫像でした。
2013イギリス・イタリア旅行 ~その9~ バチカンでニンジャになる - 鵜の目鷹の目
ベルニーニを見て思ったのは、「これは光の彫像だ」ということです。白い大理石が反射する光と、凹凸が生み出す影による明暗をくっきりと分けることによって、単なる人間の生き写しではない、芸術品に仕上がっているのだと感じました。
ミュシャの絵にも、似たような印象を受けました。コントラストが強く、肌はマットに、衣服は詳細に色分けがなされています。写実画に比べてデフォルメされているその描写こそが、実は「見たままに描く」ことなんじゃないかと思いました。
「ある」ものをそのまま写しても、「見る」ようには見えないことがあります。タミヤがプラモデルを作るときにあえて同じ縮尺のまま小さくせず、実寸よりも高く作ったり、海洋堂ヴィネットを作るときに大幅にディフォルメを加えて、実物よりもむしろ実物らしく見せる技法。人間の目は見ているようで全く実物を捉えていないため、どのように認知しているかを考えて描くことが、素晴らしさの根源なのではないかと考えました。
こういった光の使い方は、親友であるゴーギャンの作風や、趣味であるカメラが影響しているんじゃないかということを示唆させる展示内容になっていて、興味深かったです。

ミュシャで有名なのはやはり前述したような特徴的な広告画ですが、油絵も相当に素晴らしく、特に「花に囲まれた理想郷の二人」のまなざしからは、絵の前から立ち去りがたい印象を受けました。とにかく今回は、この絵を見れたことが収穫だったと思います。
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ピカソ展でも感じたのですが、画期的手法を編み出す人というのは小手先だけでそれができているわけではなく、基礎的な部分においても天才的なんだと、当たり前のことを思い知らされます。
油絵を見ていてもう一つ気がついたことは、遠近法の巧みな使い方についてです。人物よりも手前にあるものと、人物と、人物よりも奥にあるもの、これらの距離感がくっきりと描き分けられていて、ちょうどカメラの絞りを開いたような、それよりももっと人間が認識しているように描写されており、立体的な広がりを感じました。

美術館に行くと、写真やパソコンのディスプレイでは表現できない細かい描写や、筆使いまではっきりと感じ取ることができて、やっぱり実物はいいなと思います。VRがどこまで進歩しても、現実に追いつくのはなかなか大変なんだろうなと思いました。
近くの美術館でももっとこういう凄い展示があればいいんですが、地元の作家の作品展というかお披露目会みたいな感じでイマイチなんですよね~。都会に住んでいる人が羨ましい…。