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読書熱は覚めやらぬ

読書

うん。一度燃え上がったおかげでどんどん読める。『背の眼』が冗長だったせいでしばらく遠ざかっていたけどやっぱり読書はええなあ、と思うのですよ。気持ちにざらつきがあっても文章のリズムがそれをフラットに慣らしていくような、そういうところがある。
だから(割と)たくさん本を読んでいても内容やあらすじはそんなに覚えて無くて、なぜなら没入感というか、内容よりも読むことによって生まれた自分の心境の変化の方が大事で、それはそれで極私的な楽しみとしては良いのですけれど、あまりにそれでは無意味すぎるのでこのように読書日記をつけているのです。
 

わたくし率イン歯ーまたは世界


たった今読み終わったおかげで冒頭から川上未映子節になってしまったけれど、この人の文章のグルーブ感はすごい。怒涛のように読ませる力に関してはこの人の右に出る人は今のところ、知らない。
文章はまるで脳が直接ペンを取ったかのよう。実際に口に出して発する前の、脳の中でぐるぐる回っている段階の言葉を、発することで失われるエネルギーを残したままに紙に貼りつけられているので、読んだ自分の脳にもそのエネルギーがダイレクトに注ぎ込まれてくるようだ。
もちろんただの言葉の羅列がそこまで人の心を揺さぶるわけもなく、物語だけを取り出してみても魅力的ではあるんだけどそれはあくまで骨格、ベースラインであって、大事なのはこの奔流のようなリズムに身を任せてどこまでも流されていくことなんだなあ、と思うのです。
 

モノレールねこ


川上さんとはまったくの対極にいそうなのがこちらの加納朋子。向こうが濁流ならばこちらはさらさらと清らかに流れる清流のようだ。
この本に収められている短編はどれも同居人(猫だったり無能な叔父さんだったり幽霊だったり)との関わりを描いている。関わる相手が増えたり減ったりすることで否応なしに自分の気持ちも変わっていく。遠慮したり、踏み込んでみたり、苛立ってみたり。そんな心境の変化をプラスもマイナスもひっくるめて歓迎すべきもの、刺激を新鮮に受け取るような書き方が、自分の気持ちも晴れやかにしてくれる。
加納朋子といえば「ななつのこ」シリーズでおなじみの日常系謎解きストーリーがおなじみなんだけど、今作はそういう作風から謎を取り去って、その分優しさをいっぱいに詰め込んだような作品でした。
 

ZOKU


森博嗣というと、こ難しくて、冷徹な理論に満ちたミステリを書く作家というイメージがあったんだけど、それを見事に!ひっくり返された。
いや違うんだ、自分は図書館でミステリを借りたくて「モノレールねこ」と「ZOKU」を著者名だけ見て手にとったんだ・・・。そしたら両方ともぜんぜんミステリじゃないなんて! しかも両方ともものすごく面白いなんて!! いやほんと、こういう時に自分が本読みで良かったとしみじみ思います。
いつもの真面目な調子がだんだん狂っていく。持って回った言い回しがどんどん調子外れになっていく。そして読者はいつか気づくのだ。これはコメディーじゃないか!、と。壮大な無意味といったら良いのだろうか。徹頭徹尾全てが悪ふざけ。特にエピソード3と4の読み終わったあとの脱力感と言ったら・・・最高です。
続編も続々編も超おもしろいらしいとtwitterで教えてもらって地団駄踏んでいるところ。いま手元にあるのを読んでしまったら最速で読みに行こう。
 

道徳という名の少年


いやあもう桜庭一樹も来るところまで来てしまったな、という作品。もう巨匠ですよ。日本の文壇を代表する作家の一人ですよ。装丁からなにから趣味全開!という雰囲気丸出しなのに、それでもなおかつ面白いんだからたまりません。これまでの彼女の作品の上澄みをあつめて濾過したような、美しくも退廃的な連作短編集で、『赤朽葉家の伝説』と『ファミリーポートレイト』を混ぜてガルシア・マルケスの『百年の孤独』風に仕上げましたという雰囲気。
全部でたった121ページとめちゃくちゃ短いんだけど、逆にいうとこれだけの短さの中にこんなにストーリーを詰め込んで詰め込みすぎの印象をまったく与えないのはもはや名人芸の域。たとえるならば米を徹底的に磨いて雑味を除いた、大吟醸のような小説でした。
 
むかしは古典ばかりしか読んでいなかったけれど、同時代を生きる作家を追いかけるようになって面白いのはやはり、新しい作品を出すたびにその作家の力量が上がっていくのを感じるところだと思う。そういう意味ではやはり、賞レースに絡んでくる人に注目しておくのって大事なんだろうな。受賞前、受賞作、受賞後と並べてみるとそれだけでもおもしろい。
今回の直木賞候補作は仕事が忙しいせいでぜんぜんチェックしてなかったので(天地明察と光媒の花は事前に読んでいたけど)、そろそろそちらにも手を出さなければ。
 
はてな年間100冊読書クラブ 295/303)