食事時には読まないで

グロテスクな本を読む時にはこういう注意をするのが定番だけど、グロテスクかつ食事シーンが満載な場合はどうしたら良いのでしょうか。

ダイナー


というのがこの本。食欲が湧く→読みながら食べる→吐き気がするの悪循環。
平山夢明といえば自分内で「他人にオススメする本No.1」を受賞した『独白するユニバーサル横メルカトル』でおなじみだけど、今作もセンスあふれるサディズムに充ち満ちた大変素晴らしい本だった。クールに目玉をくりぬいたり、芸術的に生爪を剥いでみたり、読んでいて口内に苦いものが込み上げてくることを抑えることができない。
反面ではタイトルとなっている「ダイナー」の通り作品の舞台は食堂であって、そこで殺人者たちに共される極上の料理には生唾が湧いてくる。この対比がなんともすごい。
長編なのでオススメNo.1とはいかないけれど、厚さのわりに一気に読んでしまう魅力がある(し、グロ描写も横メルより控えめ)ので、是非とも読んでいただきたい一冊です。
 

儚い羊たちの祝宴


2冊続けて”特A級”に面白い本が続くとテンションが上がりまくってしまいますのです。
米澤穂信といえば「小市民シリーズ」でおなじみですけど、その他の作品は徹底的にテンションが低いのな!(←誰に言っているんだか) 全体的にモノクローム。登場人物たちも、自分たちが行動する理由を胸に秘めて絶対に明かさない。道尾秀介にも似た傾向はあるけれど、よねぽの方がその傾向はずっと大きいかな。もしくは、これだけの陰鬱さを秘めているからこそ「小市民シリーズ」が普通の高校生の男女を主人公にしながら、全体的に無情な雰囲気が流れた作品になっているのかなあ、なんて考えた。
閑話休題
今作は「バベルの会」という良家の子女が集う読書クラブを核にした連作短編集となっているが、それよりも大きなテーマが「主人と従者の関係性」だと感じた。惑星と衛星のように昼も夜も結びついた主従であっても、その心の中は推し量ることができない。地球にいても月の表面の寒さが想像できないように、恵まれている者には欠けているものの気持ちが理解できない。そんな突き放すような関係であっても、互いの重力にひかれ合ってしまう様がはかなくも美しくて素晴らしい。
 
ミステリ部分も超一流の驚きを提供してくれる。最後の1ページをめくった途端に視線が天上からの物になり、自分が読み進めてきた文字が一枚の絵画を形作っていたと知らされるような感動がある。ミステリはこうでないとね。
 

恋愛詩集


電車の中でなかなか開きにくい表紙だけど、頑張って読んだ甲斐は十分にあり。
作中に納められている古今東西の恋歌はどれも良いのだけれど、圧倒的なのは与謝野晶子。ビリビリ痺れた。10年くらい前に読んだときはなんとも思わず読み終えたのが嘘みたいだ。村上春樹といい、以前に読んでそれほど感銘を受けなかった作品を読みなおすのはいいね。いい。
与謝野晶子の短歌で特に良かったのは次の1句。

いさめますか道ときますかさとしますか宿世のよそに血を召しませな

畳み掛けるような迫力。7句目に”血”という文字を持ってくる凄みが素晴らしい。これもすごく良かった。

罪おほき男こらせと肌きよく黒髪ながくつくられし我

解説によるとこの句は、社会的地位が低く、男にひどい目に合わされても泣き寝入るしかなかった女性からの反撃の狼煙だ、みたいに言われているんですがどうもピンとこない。
確かにそのまま現代語に訳せば「罪が多い男たちを懲らしめるために私は美人に生まれてきたのだ!」ということになるし、俵万智のチョコレート語訳でも

完璧なボディに我は作られた「男」なるもの懲らしめるため

となっている。
でもどうなんだろうね。普通に、罪おほき男=鉄幹なんじゃないだろうか。鉄幹さんは当時文壇を代表する大スターで当然超モテモテで、奥さんの他に二人の愛人がいたりした(そのうちの一人が晶子)『ザ・罪おほき男』なわけで。そんなモテ男も私の美貌の前にひれ伏すのよ!と読み取った方が、晶子の自信満々さが伝わってきて楽しいのではないだろうか。
 
はてな年間100冊読書クラブ 286/303)
 
「玉梓の→使」