ラットマン

『鬼の跫音』で一気に好きになった道尾秀介。だけど『カラスの親指』はあんまり好きじゃなかったりする。今作はどっちかな〜と思って読んでみたら、期待通りのヘビー路線で楽しめた。

うう、面白かった点については何を書いてもネタバレになりそうだけどまあいいや。
登場人物は結構ステロタイプ。姉が精神科医だったり(だから心理分析ができる)父が警察官だったり(だから捜査に詳しい)、与えられた役割があってそれをこなす感じが小説というよりもゲームっぽかった。このようにして現在のパートをできるかぎり単純化して、その分過去の事象を複雑にすることで、分かりやすくかつ作品に深みを持たせているのかもしれない。
キーワードになっているのが『先入観』。過去に起こった経験から、この事件もきっとそうだと思い込んでしまう。きっとあいつが殺したんだと思い込んでいるから、他の容疑者に目が行かない。事件自体は謎でもなんでもない、終わってみると単純なものなんだけど、その周辺にいて真実に届かない人々の心理状態がリアルで、自分もその雰囲気にのまれてしまう。ぐいぐいと引き込んでいくような視線で物語が展開していくため、あれよあれよという間に話は進み、気がついたら主人公と一緒にだまされていた、という爽快感が良かった。
 
はてな年間100冊読書クラブ 239/229)
 
次は『球体の蛇』を読みたいなあ。