敷居の低いミステリ

もちろんいい意味で。しかも最大級に。

『スペース』を読んで感動したので、加納朋子のデビュー作であり駒子シリーズの一作目でもある『ななつのこ』を読むのは必然であった。
ああすごい。こちらもすごく良い。
まず最初に書いた通り、ミステリの敷居が低い。変にこじったトリックもなければ無理からの仕掛けもない。全て読み終わると「なるほど!」と手を打つような見事な謎解きが待っている。
そしてストーリーもどこにでもあるような出来事を題材にしている。全く自然体のなにげない日常の中にある、ちょっとした事件。
そんな”普通”の物語が、なぜここまで心を引きつけるのだろう。それは多分、作者の優しさが文体全体ににじみ出ているからだ、と思う。壊れやすくはかない人の気持ちを、真綿で優しく包むように届けるような筆致にこちらまで気持ちが優しくなれるような気がした。
 
もちろんポイントは優しさだけではない。『ななつのこ』というタイトルどおりの7つの連作が、最後にはそれ自体が謎かけでありひとつのミステリだったことが明かされる仕掛けには驚かされた。先に3作目を読んでいる自分でも分からないような、騙されていたことに爽快感さえおぼえるようなトリックが素晴らしい。
デビュー作だけあって最初は主人公の駒子のキャラが安定しない。というか、読み始めたときは「これは私小説なのか?」と思うぐらい駒子=作者という雰囲気だったのが、徐々にキャラクタの骨子が定まって一人立ちしていく過程もまた、楽しい。
 
Wikipediaによると、加納朋子の夫はこの前読んだ『乱反射』の貫井徳郎であるとのこと! なんという偶然! でも作品は奥さんの方が断然好みだなあ。
はてな年間100冊読書クラブ 203/229)