森田健作は無罪です

千葉県知事に当選した森田健作が,自民党の要職にありながら無所属として立候補したことについて一部の県議会議員が「虚偽記載である」として訴えを起こした件について*1だが,結論から言って森田氏が無罪なことは間違いが無い。
まず公職選挙法を見てみよう。

公職選挙法第86条の4第4項

所属する政党その他の政治団体の名称を記載する場合にあっては当該記載に関する当該政党その他の政治団体の証明書その他政令で定める文書を添えなければならない

法によると,所属党派を立候補届出に記載する場合だけ所属党派証明書を提出しなければならないと定められており,提出しない場合は無所属にせざるを得ない。よって,自民党員であっても無所属と標記することについては虚偽事項の公表罪とはならない(というか,なりえない)のです。
判例にもこうある。

「立候補推せん届出書中候補者所属政党欄における無所属の記載は,同候補者がいかなる政党にも所属しないことを意味するものではなく,所定の党籍証明書を得られなかった場合に記載すべき相当広い意味の呼称である
(昭和35.1.22 名古屋高裁金沢支部判決)

たとえば,A氏は自民党の公認を受けて選挙に挑んでいたがなかなか当選しないため,今回の選挙では自民党はB氏を公認することにしたとする。このときA氏が「いや,オレは自民党の人間だ」と言って立候補届出を出そうとしても,党籍証明書を選挙管理委員会に提出できなければ「無所属」で出馬せざるをえないし,たとえ彼が党員であっても党の要職に就いていても、虚偽記載にはならない。
 
常識的に考えれば党の公認を受けた者の方が有利だし,それを根拠にこの法律が存在する。そもそも「無所属の証明書」なんていうのは悪魔の証明だから出せるわけもないし,「無所属をアピールしたから勝った」というのは憶測に過ぎないわけだ。つーか、それだけであの差がつくんだと思ってたらおめでたい。
ちなみに、地方選挙では「無所属だけど党の推薦を受けている」候補者は結構いるんだけど(高橋はるみ知事だってそうだ),それら全員を犯罪者だって告発するのかねえ。
 
法律を読み解く上では字面だけ読みとるのではなく,その法律が成立した趣旨を考えることが必要とされる。県議の人は売名行為も含めて拡大解釈しているからいいけど,それに賛同する人はちょっと冷静になった方がいいね。好みで犯罪者扱いしちゃあ、いけない。特に,無実の人に向かって「よくもまあ、いけしゃあしゃあと」なんて軽々しく言ってはいけないのであります(爆) 
 

4月23日追記

共産党が「森田健作を告発する会」を発足させたとのことですが、今行われている名古屋市長選挙において、無所属の太田義郎氏*2に対し共産党が推薦を行っていることは二枚舌なのではないかと思い、共産党本部へメールにて問い合わせを行ったところ、次のような回答をいただきました(太字は筆者)。

メールありがとうございました。
「無所属」は、候補者本人の政治的立場についての表明です。「無所属」の候補を、各政党が支持、推薦などの形で応援することは、与野党を問わず、名古屋市長選に限らず、知事や市町村長などの選挙では、普通にあることです。
森田氏の場合は、本人が現職の自民党支部長でありながら、「完全無所属」と名乗ったことが問題になっているのです。「無所属といいながら自民党の支援を受けていた」ことが問題になっているのではありません。その点、事実誤認があるように思います。
 
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"実質的に"党のなかで重要な働きをしてきたとしても"形式的に"それを証明する書類が無い以上全く問題が無い、ということで、太田氏を推薦することは全く問題が無いという、お役所的な回答でした。また、森田氏への告発も結局「完全無所属と名乗った」ことが問題であるという言葉尻だけのものということが分かります。この回答を読み、起訴に持ち込む(有罪の可能性があると認める)のはやはり難しいだろうと思いました。
 
告発の行方がどうなるかは今後の展開を見守る必要がありますが、今回の件に関してはひとつの政党でありながら一市民からの問い合わせに、特に今回のような非難が含まれる内容に対してすみやかに回答する共産党の姿勢には感銘を受けました。他の党の対応がどのようなものか、一度確認してみたいものです。