崖の上のポニョ

なんというか、ものすごい作品でした。面白い、と言ってしまえばそれだけなんだけど、画面の中に収まり切れないスケールのでかさを感じました。面白いとかかわいいとかじゃなくて”凄い”ですね。
やっぱり手書きの迫力はよかったです。波の表現なんて特に、うねうねと線が動いて迫ってくる感じがたまりませんでした。常に動いていないものが無いといえるぐらいの書き込みもすごいし、登場人物の細かい動き一つ一つも丁寧に作り込まれていて、その画面を見ているだけでも満足できるぐらいです。
イデアもめいっぱい詰め込まれていてあふれきれんばかりでした。一つ一つのエピソードをとってもそれだけで一本の映画が作れるぐらいのボリュームがあるのにもったいない! と思うけど、だからこそこれだけ密度の高い、息のつく暇も無いようなスピード感を出せたのだな、と思いました。自分はフジモトが好きなので、フジモトとお母さんのなれそめとか、人間を捨てるに至るまでのエピソードとかそういうのも見たいんだけど、それをやっては蛇足なんだよね、多分。
 
最初は絵本的なタッチで始まるので、例の「ぽ〜にょぽ〜にょぽにょ」のテーマソングと相まって
「本気で幼児向けだったらどうしよう」
と心配したりもしたんですが、そんなことは全くなかったです。ていうか全然こども向けじゃないし。
 
まず第一ポニョが可愛くない。むしろ気持ち悪い(笑)
半人半魚の妖怪っぽいやつが、超自然の力を引き連れて迫ってくるシーンなんか、一見楽しげに見せているけど絶対悪夢ですから。
ストーリーも一面的ではなく、勧善懲悪じゃなくて難しい。簡単にするならフジモトを「世界の転覆をもくろむ怪人」として登場させ、それを打倒する金魚姫と一人の少年という構図にするはずなんだけど、徐々にそうではないことがわからせるところも面白みを生んでいる。
家族像も今風でおもしろい。お互いに下の名前で呼び合ってたり、素直に感情をさらけ出したり。ポニョの家族と宗助の家族の交流の物語でもあるんだけど、お父さんは孤独で大変だ、というのはどちらにも共通していて好きだ。
少しだけ露悪的というか、世の中にはきれいな部分だけじゃないんだぜ的なスパイスが効いていて、子ども向けには作っていないんだろうなと感じました。
 
不思議ですごい映画だったけど、わざわざ劇場まで出向いてみた甲斐は120%ありました。
興味がある人はぜひ、余分な情報が入る前にいった方がよいと思います。