純文学とエンターテイメントと

乳と卵

乳と卵

日常の生活の中でも、ふと頭の中をよぎることって実はものすごくたくさんの言葉が一瞬にして流れている、ってことは良くあるけれど、その一瞬で流れてしまう思考の切れ端を、丁寧に紡いでひとつの物語にしているという印象。
語り口としては女の独り語りの形式をとっているので、当然まだるっこしくもある。だけど読み手の頭の中に鮮明に、情景をありありと浮かばせるのはすごい。直截的にどうとは語らないのだけど、どんなホームに降り立ったのか、住んでいるのはどんな部屋か、どんな中華料理屋に食べに行ったのか、それらが手に取るように伝わってくる。
そこまで引き込んでおいてのクライマックスは、陳腐にして異常で、かなり読ませるところがあった。ボリュームも少ないので一気に読んでおきたい一作。
 
純文学は面白さを読者に委ねている点がどうも好きになれなかったのだけど、それを差し引いても面白かった。初期の村上龍っぽい印象は否めないけれど、そういう意味でも今後の活躍が期待できそうな作家だ。
 
個人的には表題作よりもおまけの短編の方がずっと好み。こういうギリギリの精神状態同士の物語であれば、次回作も読んでみたい。
 
120/200
 
 

マンガも読む

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない 下 (2)

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ぬあああああ、惜しい。
繊細で病的な絵柄はかなり忠実に桜庭一樹的な世界観を表しているのに、最後の最後で規制がかかるとは・・・。悲しい。
やはりラストはドン引きするぐらいグロテスクに締めてほしかったと思う。これなら小説を読んだ時の方が、自分の頭で想像した分ずっと怖かった。絵で表現できると言うアドバンテージを120%生かすなら、商業誌ベースでは難しいのか。最後まで読み終わってもったいない気持ちでいっぱいになった。
 
アフタヌーンで始まった新連載は太っちょが主人公なのでそれほど。アフタなら半分病んでるぐらいでも大丈夫だから! パッキング胎児が許されるから!
 
探偵綺譚?石黒正数短編集? (リュウコミックス)

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笑えるマンガは数あるけれど、自分が石黒正数を"買ってまで"手元に置いておきたいとまで思うポイントは、この人のギャグには根底のところに暖かさがあるところなのだ。露骨にはそれを出さないのだけれど、読後にそのやさしさのせいで心が暖まるような、そんな気持ちになるようなギャグマンガを書ける人はこの人をおいて他にいない、と思う。
あとはやっぱり、女の子が微エロなところがいいのかな。全然セクシーじゃないのに、分かる人にしかわからないようなそこはかとない色気を出すのが上手い。童貞気質が高い自分としては、このぐらいのエロさが絶妙でたまらないのですよ。