総括という名の中傷

内田樹が「橋下府政三ヶ月の総括 (内田樹の研究室)」というエントリーをあげていたのだが、どうもピントがずれている。彼の言いたいことを三行でまとめるとこういうことなのだが、
 

  1. ビジネスであれば「採算がとれる部門」にリソースを分配し、「採算不芳部門」からリソースをカットすればいい。
  2. ところが行政はビジネスではない。だから、「採算の上がる部門」というものは存在しない。
  3. であるから行政の場合は、住民が求める「あるべき自治体像」から逆算して、予算を優先配分するところと、削減するところが決められる。

 
う〜ん、どこから突っ込めばいいものか。

久しくリソース分配の優先順位は、「次の選挙で票が集まりそうな事業」に予算をつけようと争う政治家たちの実力差によって決された。
そして、このルールでやっているうちに底抜けの財政破綻に至ったわけであるから、このルールはもう使えない。

この意見はしごくまっとうなのだが、なんと言っても財政が破綻した最大の原因は「次の選挙で票が集まりそうな事業」を掲げる政治家に票を入れる住民だったはずだ。自ら破滅の道を選択した者に対してもう一度住民が求める「あるべき自治体像」を尋ねることの意義が、私には感じられない*1
それに、そもそも配分するだけの余裕が無いから財政再建をするという公約で橋本知事が選ばれたという点がスッポリと抜けてしまっているのは問題だ。財政再建を(住民が)求めて当選した人間が財政再建を行っているのを批判するというのは、すなわち大阪府民を批判していること。これは自己矛盾ではないのだろうか。
 
 
「オーバーアチーブする人」を登場させるためには知事が職員の士気を上げるしかないという主張はかなり面白い。なぜなら、私が知っているそのような例は一例だけで、しかも内田樹が蛇蝎のごとく嫌っている石原都知事のケースだったからだ。
堀博晴という元都職員がいる。彼は差し押さえた財産をYahoo!オークションで公売するという「インターネット公売」を全国で初めて行った人物なのだが、著書の中で石原都知事についてこう語っている。

都とヤフーの双方がインターネット公売の実施を正式発表したのは4月16日でした。事前に説明を聞いた石原慎太郎都知事は、即決でOKしてくれました。私は一貫してヤフーに対して強気の構えをとってきた手前、万が一、知事が了承しなければ、退職する覚悟でした。知事が喜んでくれたと聞いて、ひと安心しました。
 石原知事は自らの定例記者会見で、「入札者が大幅に増加して、より高値で売却できると期待している。インターネット公売の活用によって、都の税収ひいては徴収率の向上にもつながっていくと思う」と語りました。
(本文はこちらから読めます)

このように、前代未聞の提案に対し即決で決められるような人間がいたからこそ「オーバーアチーブする人」が活躍できたるという内田樹の主張は正しかったことが証明された。ディーゼル車の規制、銀行税、新銀行東京首都大学東京など、全部が成功したわけではないが*2、新しい業務が始まるたびに職員の士気はあがっただろう。
 
 
こう考えてみると、内田樹はすべからく政治家というものが嫌いで/バカだと思っていて、いろいろ理屈をつけてけなしたいだけに思えてくる。愚民のせいで破綻した財政を立て直そうとしているのを愚民に聞かないのは良くないと言ってみたり、一方で橋本知事がするべきこととしてあげていることをクリアしている石原知事は徹底的にこき下ろしている。
内田樹は人間としては面白いのだが、政治経済のことに関しては微妙に説得力のある言葉で、ぜんぜん信頼できないことを言うのでタチが悪い。最初に「よく知らない」と言っている段階で読むのをやめるべきなんだろうけど。

*1:この解決策についてはいずれ書きたい

*2:個人的には新銀行東京も成功したと考えているが