専門家の強み

前回の直木賞候補になったときに読んで、気になっていた人のを読んでみました。

遮断

遮断

最初ページを開いて、また沖縄戦?と思ってしまったのですが、全くの間違いでした。
この人は"沖縄戦のプロ"なのです、ある意味で。
 
『敵影』では日本とアメリカの戦いを柔道対ボクシングという縮図に押し込めるからくりが、自分にはどうしても無理な試みに思えて引っかかっていました。
今作でも確かに、生きているはずの無い子供を救うために死線をくぐり抜ける無謀さというのは確かに無茶なのですが、無茶であると分かっていながら進まなければならない主人公の心理が、ミステリ仕掛けを通じて徐々に明かされるうちに、自然とその無茶が受け入れるようになっているのが素晴らしい。
なぜ死地へ赴くのか、なぜ逃げ出したのか。そしてなぜ、彼は『遮断』することを選んだのか。それら全てに感情移入できて、一気に読んでしまいました。
 
○○もの、というのは、それだけで面白さポイントが上乗せされているものです。警官もの、時代もの、もちろん戦争もの。もとの舞台が面白いのだから、何を乗っけようがある程度は面白いことが保障されています。
なので、個人的には特定のジャンルのものは低く評価するのですが、今回だけは違いましたね。専門家ならではの重みをしっかりと感じた作品でした。
 
 
109/200
 
 
『風が強く吹いている』『仏果を得ず』などで最近好きになってきている三浦しをん。だったら代表作を読まなくてはと、直木賞受賞作のこの作品を読んでみました。
まほろ駅前多田便利軒

まほろ駅前多田便利軒

う〜ん、これ、本当に直木賞? 中身のあまりの薄さに、首をひねってしまいました。
モチーフがとにかく"現代"すぎて、たった2年前の作品なのにもう古さを感じさせてしまっていました。
小学生と麻薬、親を殺す女子高生、そんなキャッチーでショッキングな出来事を組み合わせただけで、この作品を通じて何を訴えかけたいのかが伝わってきません。
 
一作ぐらいあわない作品があってもその作家の価値が減ずるわけではないのですが、これを直木賞に推した審査員たちは今これを読み直したらどういう感想を持つのか疑問です。
 
 
110/200