SFは至高

直木賞ナナメ読みはちょっとお休み。久々にSFに手を出してみました。
 

アイの物語

アイの物語

 
泣いた。今年度一番良かった作品かもしれない・・・。
 
タイトルの"アイ"は、"愛"でもあるし、"AI"でもある。AIが人間に向けて語りかける物語が、まるでこの本が自分に向けて語りかけてくるように、じわじわと心に染み込んできます。
最初は、ほんの他愛も無いエピソード。意図もつかめないし、この先どうなるかも分からず、ぼやっとした感じなのだけど、それがだんだんと、寄せては引き、ひいては寄せながら核心に迫っていくうちに作品に引き込まれていきます。7つの短編を読み進めるうちにすっかり"説得"されてしまった自分がいました。
 
収められたエピソードの中では、特に『詩音が来た日』が一番好きなんですが、これをもし最初に読ませられたとして、これだけ突拍子も無い(と思える)展開に素直にうなづくことができただろうか、と思います。
一つ一つの珠玉の短編であるのですが、それをひとつのテーマにしたがって集めただけでなく、それぞれが呼応しあって物語の面白さをより上階へと引き上げるテクニックが、非常に素晴らしかった。
ある意味ではこれは聖書のような本だと思ます。寓話を引き合いに出して、ある種の倫理体系を抵抗なく受け入れられるようなシステムが今作にはありました。
 
現在ではと学会の会長として有名な山本弘ですが、自分はグループSNE時代、ソードワールドリプレイ集などを手がけていたときのほうを良く読んでいます。それだけに山本弘のSFといえば『ラプラスの魔 (角川文庫―スニーカー文庫)』や『サイバーナイト』などのちょっとゲームっぽい世界を想像していただけに、今作の重厚さは意外であり、うれしい驚きを感じました。
 
89/100