脳科学の現在と未来のテクノロジー
公立はこだて未来大学で開催された公開講座に行ってきた。講師は脳科学者の茂木健一郎先生。
去年は羽生善治二冠*1の講座を聞きに行ったが、地元に大学があるというのはこういう利点があるのだな、と思う。こういう機会でもなければなかなか生の姿を拝めないし、身に入る度合いも断然違ってくる。
開演は18:30からだが、念のために早く会場入りしたおかげで前から2段目の絶好の席をゲットできた。夕食を抜いた甲斐があったというものだ。
今回もメモはW-ZERO3の手書きメモで取る。手書きとか古いですから、という目で周りを見ると、今回は学生の参加が多いせいかノートパソコンの持ち込みも多かった。さすが"未来"大である。ここの講堂は座席に電源とLANポートが備え付けてあって素晴らしい。
茂木先生は10分前くらいに会場入り。ここで何人か本を持ってサインをねだりに進む。しまった、持ってくるんだった! みずからの機転の利かなさに一本いきたくなるが、ここは我慢。
講義の内容は、学生を対象にしつつ、脳科学と複雑系の話を絡めながら行うという、初学者向けなのか専門的なのか分からない素敵な感じで始まった。箇条書きで講義の内容をまとめてみる。
序論
- 脳は複雑なもの。一つ分かるとまた一つ分からないものが増えていく
- クオリアとは、意識の生み出す質感のこと
- 脳という神経細胞が、なぜ質感を生み出せるのかということを研究している
- どのスケールで脳を捉えるか。細胞?分子?原子?素粒子? それによって全てが違ってくる
- アインシュタインに憧れていたが、最近はダーウィンに傾倒している
- 進化論(にしろ脳科学にしろ)e=mc^2みたいな式では表せない
- ダーウィンは大学を出て放浪の旅に出た。ビーグル号に乗って世界をみて、「種の起源」を出版したのは50歳になってから。こういう生き方に憧れる
- 進化論は一見無関係な生物を系統立てたことに価値がある。
- 生物の多様性を認めたことが重要
- 進化論の発表からDNAの発見まで100年かかった。理論に科学が追いつくまでにそれだけかかる。クオリアが手に取るように分かるまでは、もっとかかるかもしれない。
- 作者: 茂木健一郎
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 1997/04/24
- メディア: 単行本
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記憶とは何か
- 今日の講義は私のブログからダウンロードできるので、忘れても大丈夫です(笑)
- どんな情報も、脳の中で最初に割り振られている
- アメリカ同時多発テロのニュースを見たとき、どこで見たか覚えてるでしょ*2
- 情報が入ってくる前に、感情が入ってくる。これが「覚えておく情報だ!」と知らせる
- 覚えた後で記憶は編集される。
- いわゆる一発屋(たとえばレイザーラモンHGなどwww)は記憶のメカニズムを知る上で貴重な存在。脳が"この情報は必要ない"と判断する時期を知ることができる。
- 人間はしばしば過去を編集する(虐待の捏造etc)
- 暗示によってカンタンに上書きされてしまう。
- このような経過をたどって記憶は『意味記憶』へと昇華する
- 全てを覚えておくのは、生存のために必要ない(写実記憶を例に挙げて)
- むしろ細部を切り捨てて意味だけを残すように、脳は進化してきた
- 機械は必ず頭打ちになる。性能の限界が現れる。
- 人間の脳には限界が無い。オープンエンドである。
- 100学習すれば、次は1000まで学習できる。死ぬまで学習することができる。
- だから、続けていくことが非常に大事
隅有性
- 遇有性とは、規則の中に偶然が混じっていること
- 会話が面白いのは、そこに遇有性があるから
- googleが成功したのは、情報を検索する、という行為に遇有性を含んでいるから
- youtubeもニコニコ動画も同様。検索して、結果が出たということが快感を生む
- 今後は目で見る美しさに、脳で感じる喜びを足すことが、情報デザインの重要なポイントだと考えている
- ドーパミンの出方。定番で意外性のあるものに出やすい。
(例えば水戸黄門が決まった時間に印籠を出したり、たまに由美かおるがヌードを見せたり(笑))
- 対人関係で出やすい。目が合うと出る
(カネボウと共同研究しているそうな。マスカラもアイシャドウも、目を合わして男性を喜ばせる工夫だそうだ)
- それも、真正面よりチラ見のほうが良い
- 携帯電話がこれだけ普及したのは、人間のコミュニケーション願望を簡単に達成できるから。
- このように、ドーパミンの出方一つとっても脳は難しい。
- 感情とは、不確実性への適応である
- 確率が同じでもなにか働きかけたい
- 能動的に動いた方が満足度は高い
- スモールワールドネットワーク。規則性とランダムの間の構造。脳もこのような構造をしている。
ここまで聞いて思ったのは、ドーパミンを出すことにおいて誰が主体なのか、ということ。ドーパミンが出たら嬉しいと思うのは自分だが、なかなか出させないようにしているのも自分だし、効果的に出る(と思われる)仕組みを作っているのも自分だ。意識している自分と、意識の外にある自分は同一人物なんだろうか。そういうことを考えているとどんどん先へ進んでしまうので、とりあえず保留して話しに集中する。
まず前半部分はこんな感じ。茂木先生の専門であるところのクオリアの話は軽くはしょった感じである。それにしても中身が濃い。時間が許せば倍くらい話してもらいたいところだが、こうやって思わせるところで学習意欲を沸き立たせる役目を果たしていることか。ちょっとズルい。