[読書]のどかにのびやかに

風流は心を豊かにするというけれど、心が豊かになると世間が乱れていても自分を保つことができるのかもしれません。湖の水面を風が吹いたとき、水深が深いほどにさざ波が立たないことに通じるものがあるのかも。抗いがたい運命に対しての、登場人物たちの潔ぎの良さには見習いたいものがあります。

俳風三麗花

俳風三麗花

昭和初期の句会という風雅な会を通じて三人の女性が紡ぐ物語。その三人もそれぞれ時代を反映して混沌としていて、当時の風潮がよく表されていると思いました。
ちゑと壽子、旧い時代と新しい時代を代表するかのような二人の対比がよかったです。服装も考え方も恋の仕方も全く異質の二人が俳諧によって通じ合う様子はとても好ましい。もちろん松太郎も当時の風俗を描写するために欠かせない存在だけれど、やはりこの二人の世慣れないやりとりがいかにも昭和初期という時代を反映しているようで楽しかったです。
 
自分は夏目漱石が好きなんですが、その理由にはもちろん文章の良さもあるけれど、一番好きなのは当時の、どこかのんきな空気が感じられるところです。今の世の中の殺伐とした、みんなが目を三角にして不平を叫んでいる様子と比べると心がいやされる気持ちがしました。
 
それにしても特筆すべきは登場する俳句の量と品質です。どれも素晴らしすぎてもダメで、それぞれの登場人物の性格にあったものを作らなくてはならないのですが、それを見事に実現しているところに作者の教養の深さを感じられました。
 
今年の直木賞候補だったのをこれで3作読んだけど今のところこれが一番良かったです。というか今年読んだ本の中でもベスト5に入るくらい。でもちょっと気になる点があったので蛇足します。
『冬薔薇』で、壽子がとどいた文の差出人が女性だといきなり確信できたのがなんでだろうと思って二三度読み直しました。ま、女子医専に通ってるんだし「かしこ」で結ばれてるしその通りなんだけど、それだと結末に納得がいかないんですよね。
あと表紙が×(笑) もっと美人に書いて〜。
 
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