1996年の未来予測

 「10年後はこうなる」って本を10年後に読むと大抵噴飯ものなんですが。
 

ぼくたちの洗脳社会 (朝日文庫)

ぼくたちの洗脳社会 (朝日文庫)

 ところが岡田斗司夫は違いました。っていうか今出版しても"現在の社会を斬る"だけの用途でなら十分通じる本です。全然新しさを失っていない。
 「マルチメディアの発達が、人を洗脳する力をマスコミから一般市民へ開放する」
 このことによって自由経済社会から自由洗脳社会への変遷をたどる、というのがこの本の主張です。万人の万人に対する洗脳が始まるというのは、まさに現在"一億総ブロガー社会"といわれている状況そのものです。
 
 今が新しい時代への端境期だとすると、そのせいでもがき苦しんでいる人間が多く存在するものうかがえる話です。自分の「やるべきこと」よりも「やりたいこと」を重視する若者が増えても、社会がいまだ洗脳社会になりきれていない今だから受け入れ先が無い。にもかかわらずマスコミは「自分らしさ」をあおり、夢を買い取るような商売は勢いを増しています。
 
 そういえば先日、内田樹先生が「若者はなぜうまく働けないのか?」という題でこんなことを書いていました。
 

若い人たちは「やりがい」ということをよく口にする。
「やりがいのある仕事」を求めて、たびたび転職したりする。
この場合の「やりがい」ということばを年長者は「使命感」とか「社会貢献」ということと誤解しがちだが、当人たちはたいていの場合「受験勉強と同じ」という意味で使っている。
つまり、自分の努力の成果が、まちがいなく自分宛に、適切な評価を受けてもどってくるような仕事のことである。
残念ながら、ほとんどの仕事はそういうふうには構造化されていない。
だから、彼らが最後にゆきつく「やりがいのある仕事」はミュージシャンとかアーティストとか作家とかいう「個人営業のクリエーター」系に固まってしまうのである。
若者はなぜうまく働けないのか? (内田樹の研究室)

 
 このことも、洗脳社会という観点から考えればちょっと違っているかもしれません。「やりがい」のある仕事を求めているのではなく、どうせ苦痛なら「イメージのいい」仕事をやりたいだけなのではないかと考えるとすっと落ち着きます。どうしても内田先生は現代の、というより過去の社会の価値観から語っておられるので、ややおっさんくさく感じてしまいます。
 

たしかにロケンローラーが1000万人、漫才師が1000万人、漫画家が1000万人いる社会というのもにぎやかでよろしいだろうけれど、社会的ニーズということも多少は考えていただきたい。
若者はなぜうまく働けないのか? (内田樹の研究室)

 
 むしろ今の日本は、そういう社会へと移行しつつあるのでしょう。
 そういう意味ではワーキングプアの問題も、時代を先取りしすぎたゆえの悲劇なのかもしれません。狩猟社会から農耕社会への間でも似たような悲劇はあっただろうと思います。試行錯誤の結果、村落を作って収穫物を狩猟民族から守るという知識が生まれたように、洗脳社会での生き方も今後道しるべが出来ていくことだと思います(経済社会においては「いい大学に行き、いい企業に就職する」ことだったように)。
 
 だから自分のワーキングプア問題への考察も、
6月25日の日記 アリとキリギリス
6月26日の日記 土俵に立つ前の問題
 彼らが過渡期ゆえの被害者であると考えると厳しすぎたのではないかと思いました。経済社会のつもりで経済社会を生き残るべく努力をしてきた者と、もう経済社会は終わりだよーって煽りに乗って踊り続けてきた者とでは、まだ洗脳社会になりきれてない現在においては越えられない差が出てしまうの当然ですが、いくら遠い未来の話だろうと、努力に疲れてしまった人間には甘美な誘いに聞こえたに違いありません。
 ただ今後、10年20年後に完全な洗脳社会へと移行したときに立場が180度変わってしまっている可能性を考えると、ワープアな人々にはまだまだ同情できないな〜と感じてしまいますが。
 
 ちなみにこの本の内容は全てウェブ上で公開されています(太っ腹!)。
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 未読の方は是非読んでみてください。オススメです!

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