湿度の高い怖さ

 恒川光太郎の作品には、しっとりと冷たく湿った空気が流れているように感じます。夜に半袖で外に出たら思いのほか寒くて、それでも後戻りせずに歩き続けているような、そんなザワザワした感じが常につきまといます。それは多分、恐ろしいという気持ちと違った怖さが表現されているからなのではないかと思いました。

夜市

夜市

 表題の『夜市』もそうですが、特に『風の古道』にはその傾向が強くて引き込まれました。両者とも共通しているテーマは"別れ"なのですが、前者では戻ってくるのはあくまで傍観者であるのに対し、後者ではやむを得なく、そして利己的に別れることを選んでいるのが印象深かった。
 ただしどちらも短編ではものすごくもったいない。だけど2作目の『雷の季節の終わりに』ではそういう不満を全て昇華できていただけに、恒川光太郎のこれからの作品にも大きく期待したいところです。
 
19/100