地球滅亡も小道具の一つ

 昨日に引き続きこれも大当たり。没頭のあまり寝るのが深夜1時を回ってしまったくらい。読み終わった後でこの作品の前後の話も読みたくなるのは名作の証だと思います。

終末のフール

終末のフール

 地球の滅亡を3年後に控えた世界で"滅亡"そのものではなく、その事実を受け入れて生きる人々を描いた短編集。正直最初のうちはリアリティに首を傾げざるを得ませんでした。「なんで」「どうして」この世界は終わらなければならないのだろう、と。だけど読み進めていくうちにもうその段階は過ぎているんだということに気づきます。主人公たちはそういった理不尽とすでに戦い抜き、結果としてともに生きる道を選んでいるのです。もはや規定事実であるそのことを読み手も受け入れるところからこの本の面白さが始まってくるのだと思いました。
 短編の中には心温まる物語や、ユーモラスなものも含まれています。でもその背後にいつも"滅亡"という危うさが見え隠れします。主人公の無邪気な様子に微笑みながらも、まるでウレタンで包まれた刃物で首筋をなぞられているかのようなザワザワした不安感が消えないような、そんな感覚。死がいたるところに転がっていて、自分にも死がいつ降りかかってくるかも分からないけど、どうせ何年か先には死ぬのだからとまっすぐに生きようとするその姿勢が刹那的すぎてやるせなくなってしまいました。
 
 どれも面白いけど「深海のポール」がおすすめ。死と隣り合わせに暮らす人の"死ぬことよりも怖いこと"とは何か。かなりぐっとくる作品でした。